EETJ LT3080は、Dobkin氏が開発したそうですね。
Dobkin氏 LT3080の構想自体は、1970年に思い付いた。
EETJ ……1970年とおっしゃいましたか? 今から45年前ということになりますけども……。
Dobkin氏 そう、1970年だ。ただ、当時は、そのアイデアを製品化するためのテクノロジーが存在していなかった。そのため、実際に開発に着手したのは2004年になってからだった。3年かけて開発し、2007年に発表した。(1本の抵抗で出力電圧を設定できる)LT3080の開発に必要なのは、薄膜抵抗とトリミング技術だった。非常に高い精度の抵抗が必要だったが、1970年代には、そうした抵抗を製造できる技術がなく、2004年ごろになって、やっとそういった技術が登場し始めた。それで2007年に、市場投入に至った。以来、顧客からは良い反応を得ている。1本の抵抗で出力電圧を設定できる他、より高い電流が必要な場合に並列に接続できたり、出力電圧を0Vまで設定できたりといった、他のリニアレギュレータにはない特長を備えているからだ。
EETJ つまり30年以上、アイデアを温め続けて生まれた製品なのですね。そこまで待って、やっとテクノロジーがDobkin氏のアイデアに追い付いたということですね。
Dobkin氏 もちろん、たった1人で開発したわけではなくて、他のエンジニアたちと組んで開発したが、LT3080の製品ファミリは今では6〜7品種をそろえている。LT3080に使われている薄膜抵抗は、当社の他の製品にも活用されている。高精度な薄膜抵抗によってLT3080を実現できただけでなく、他の製品も高性能化できるようになった。
EETJ ご自身についてお話を伺いたいです。リニアテクノロジーで「アナログ・グル」(極めて優秀なアナログ回路技術者を指す呼称)と呼ばれていますよね。アナログ技術については大学から勉強を始めたんですか?
Dobkin氏 大学は中退したので、卒業していない。ただ、21、22歳のころにアナログ技術に強い興味を持って、「やるなら、これだ」と感じた。そこで、古い学会誌や専門雑誌などを読み込み、アナログ回路について独学した。そしてアナログIC業界で仕事を探し始め、(当時の)National Semiconductorに就職した。そのころには、もう、アナログICに関する知識は相当身についていた。
そして1980年、複数の同僚とともに会社を立ち上げようと決意した。National Semiconductorのビジネスが、自分たちがやりたかった事とは違う方向に向かっていたからだ。われわれが本当にやりたいのは、アナログIC技術だ。だからNational Semiconductorに見切りをつけ、1981年にリニアテクノロジーを立ち上げた。当時の従業員数は5人だった。
EETJ その後、三十数年で、約4800人の従業員と7500種類の製品ポートフォリオ(2015年時)を抱えるアナログICメーカーとなったわけですね。
Dobkin氏 創業した時、何もない、がらんとしたオフィスに初めて入った時のことをよく覚えている。リニアテクノロジーを立ち上げて2カ月で、従業員数は5人から10人と2倍になった。10人ともアナログIC設計エンジニアだったが、その後、マーケティングの専門家などを雇い始めた。そのうちに、優良な半導体ICメーカーになるためには自分たちの製造工場が必要だと考え、工場の建設に着手した。創業後1年で、工場を併設した新しいオフィスに引っ越した。その数カ月後に、リニアテクノロジーとして最初の製品となる「LT1001」を発表した。高精度のオペアンプだ。もちろん、今でも販売している。アナログIC製品の長所の1つは、長期間にわたり販売できるということだ。私がNational Semiconductorに在籍していた時に開発した製品は、40年近くたった今でも量産出荷されている。しかも、苦情の電話も来ない。
EETJ 2015年の半導体業界はM&Aが相次ぎました。CTOとして、この動向をどう感じていますか? また、リニアテクノロジーにどんなアナログIC設計エンジニアが欲しいですか?
Dobkin氏 アナログIC設計エンジニアには、創造力が必要だと思っている。いってみれば、画家のようなものだ。彼らはキャンバスに絵を描くが、アナログIC設計エンジニアはシリコンに回路を描く。マメに顧客を訪問してニーズを聞き出すことも重要だ。ただオフィスに閉じこもって回路を設計するだけではダメだと思っている。
M&Aに関しては、財務的な問題を抱えているメーカーにとっては、買収や合併で大きくなるしか生き残りの道がない場合もあるだろう。それで安定が得られるならば、それも1つの道だ。
当社は(業績が)ずっと安定していて、“誰もやめない会社”だといわれている。メーカーを次々にわたり歩くIC設計エンジニアも多い中、当社には、勤続10年、20年というエンジニアが多数いる。当社は、開発期間の短縮に対する強いプレッシャーはなく、誰かがミスをしたとしても「同じ間違いは二度とするな」と言うだけで責めはしない。非常によい環境で働くことができる。何より、従業員はリニアテクノロジーで働くことが好きだ。そうしたユニークな社風が、リニアテクノロジーを支えている。
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