実際にp-STT MRAMをかなり微細な加工寸法で試作した事例を、幾つか紹介する。東北大学の研究チームは、二重トンネル障壁層を備えた垂直磁気記録のMTJ素子を試作し、直径20nmの素子で磁化反転を確認した。磁気異方性エネルギーがボルツマン定数と絶対温度の積の58倍、スイッチング電流が24μAという特性を得ている。2014年に国際学会IEDMで発表した。
韓国のSamsung Electronicsは、直径が17nmと小さな垂直磁気記録MTJ素子で、磁界によって抵抗値を変化できることを確認した。2011年に国際学会IEDMで発表した。また東北大学は、直径が11nmと微小な垂直磁気記録MTJ素子を試作し、二重トンネル障壁を備えたタイプで磁界による抵抗変化を確認している。
これらの試作結果から、p-STT MRAMは少なくとも25nmまでは微細化できるとした。
講演者のDevolder氏は、MRAMの将来についてもコメントした。
現在のところ、MRAMの製品を量産出荷している企業は技術ベンチャーのEverspin Technologiesだけである。同社は初めてのスピン注入型MRAM(面内磁気記録方式)を製品化し、量産中だ。記憶容量は64Mbitと小さく、微細加工技術は90nmとそれほど厳しくない。価格は、10ドル前後とみられる。記憶容量当たりの単価に換算すると150米ドル/Gbitとなり、DRAMの約1米ドル/Gbitに比べると桁違いに高い。
単価と記憶容量にこれだけの巨大な開きがあると、MRAMがDRAMを置き換えるというシナリオには数多くの疑問符が付いてしまう。
ただし、MRAMには書き換え回数に制限がないという重要な特長がある。競争相手として取り上げられる次世代メモリのPCM(相変化メモリ)とReRAM(抵抗変化メモリ)では、達成がほぼ不可能な特性だ。従ってDRAM(あるいはSRAM)を置き換えられる可能性を備えた次世代メモリはMRAMだけになる。
希望的観測としては、2017年〜2018年ころに10nm〜20nmの微細加工によって8Gbit〜16Gbitの大容量STT-MRAMを実現できれば、DRAMを代替する可能性が出てくる。
(次回に続く)
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