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光格子時計を応用、高精度に標高差を測定火山活動などの地殻変動、精密な監視が可能に(2/2 ページ)

» 2016年08月17日 13時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]
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6時間の平均化時間で6cmの測定精度

 実験ではまず、理化学研究所の励起レーザーを光ファイバーで東京大学へ伝送し、理化学研究所と東京大学の2地点で、励起レーザー光の周波数揺らぎを共有した。次に、理化学研究所と東京大学にある合計3台の光格子時計を、時間的に同期運転させることで周波数揺らぎの影響を共有し、これらを共通の雑音(同相雑音)として除去した。この結果、6時間の平均化時間で6cmの測定精度が得られることを確認した。

実験装置の概要 (クリックで拡大) 出典:科学技術振興機構(JST)、東京大学他

 理化学研究所と東京大学がそれぞれ独立に時計を運転した場合に比べ、同期測定を行うことにより、同じ測定精度を得るために必要となる平均化時間は約100分の1となり、測定時間を大幅に短縮することが可能になったという。

平均化時間に対する到達精度(アラン標準偏差) (クリックで拡大) 出典:科学技術振興機構(JST)、東京大学他

 研究グループは、光格子時計を3日間連続で運転し、実時間での標高差測定も行った。同じ高さに置かれた理化学研究所の2台の時計は、1×10-18で周波数が一致する。これに対して、理化学研究所よりも約15m低い位置にある東京大学の時計は、相対論的な時間の遅れによって周波数が低くなることを観測した。標高差に換算して、センチメートルレベルの精度を、実時間で観測できることを実証した。

3日間連続して比較実験を行った結果 (クリックで拡大) 出典:科学技術振興機構(JST)、東京大学他

 さらに研究グループは、半年間にわたって、11回の周波数比較実験を行った。全ての測定結果を平均したところ、東京大学の時計は理化学研究所のそれに比べて、周波数が1652.9×10-18だけ低くなっていることが分かった。この結果から、「相対論的測地」手法により、2地点の標高差として15m16cm(誤差5cm)が得られた。この結果は、国土地理院の水準測量による標高差と時計の誤差の範囲で一致しているという。研究グループは、「遠隔時計比較によりセンチメートルレベルの標高差測定に世界で初めて成功した」と主張する。

東京大学と理化学研究所に設置された光格子時計の測定結果 (クリックで拡大) 出典:科学技術振興機構(JST)、東京大学他

 研究グループは、従来の水準測量では平均化されて見ることができない現象でも、光格子時計を使った「相対論的測地」では測定可能な事例も紹介した。その一例として、理化学研究所と約1000km離れた鹿児島県阿久根市に、それぞれ光格子時計を設置したと想定。月や太陽の引力によって生じる潮汐効果について、2地点間における標高差の変動を見積もった。これによると、潮汐効果による標高差の変動は15cmに達することが分かった。

鹿児島県阿久根市と埼玉県和光市の理化学研究所に光格子時計を設置したと想定し、潮汐効果による周波数差の変化を見積もった事例 (クリックで拡大) 出典:科学技術振興機構(JST)、東京大学他

 研究グループによると、光格子時計による高さ基準「量子水準点」を各地に設け、これらを接続して、「Internet of Clocks(IoC)」と呼ぶ光格子時計のネットワークを構築すれば、火山活動やプレート運動などの地殻変動(標高変化)を精密に監視することが可能になるという。さらに、光格子時計を搭載した車両を走行させると、地下鉱物資源の探索や、GNSS(全球測位衛星システム)を補完する高精度標高差計測システムなど、安全・安心な社会システムを実現する重要な技術基盤となる可能性が高いとみている。

マスタークロックとスレーブクロック群をつなぐ時計のインターネット接続例 (クリックで拡大) 出典:科学技術振興機構(JST)、東京大学他
光格子時計ネットワークの実装による未来の社会のイメージ図 (クリックで拡大) 出典:科学技術振興機構(JST)、東京大学他

 研究グループは今後、光格子時計の実用化に向けて、精度をさらに高めていくとともに、可搬化や自動運転、遠隔制御、長期的な信頼性の向上などにも取り組む。将来はこれらの技術を組み合わせることで、遠距離時計でもミリメートルレベルの標高差計測を可能としていく計画である。

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