ある領域に関して内側から改革を進めていくイノベーションは、それまでの領域を捨てて全く異なる領域を生み出すわけではない。人材の育成段階の構造を示した組込みスキル標準(ETSS)を図6、図7に示す。ETSSは組込み技術を応用した製品を開発する技術、管理技術、要素技術、ビジネススキル、パーソナルスキルを、扱う製品に応じて定義できる仕組みを提供するものである。特に重要な点は、スキル評価の考え方である。
図6に示すように、守破離(しゅはり)という枠組みで階層化されている。これは日本の武道や茶道など伝統文化の中で、人材(門人)に期待する到達点を示したものである。
守はその流派に伝わる知識、礼儀作法そして型を修得し、指導を受けなくても一人でできるようになることを目指す。
破は守で修得したさまざまな項目を、意識せずに振る舞えるだけでなく、後進の指導もできるようになることを目指す。
離はその流派から離れた(卒業)後、自分自身の流派を興すことを目指す。
この離の人材を育成することこそ流派の指導者の役割である。まさに、イノベーションを起こせる人材を育成することを旨としているのであり、日本文化の中に根付いている画期的な思想でもある。残念ながらこの思想が薄れつつあるようにも思われる。
図7は具体的に個人のスキルを可視化するテーブルである。
図7左側のシートには目的を達成するために必要となる知識や技術項目を詳細化して記述する。右側のシートにはその個人がもつ知識項目ごとのスキルレベルをマークする。これによって、個人ごとにスキルの分布を可視化することができる。
本稿では、シュンペーターの資本主義経済の成長プロセスの考え方を軸にIoT人材やETSSについて紹介した。特に資本主義経済の発展プロセスと創造的破壊についてはモデル化して示した。また、イノベーションについても明確化した。IoTが製造や流通に密接に関わる時代の中で、われわれにはこれまで以上に資本主義経済発展のプロセスを理解し、活用できる力が必要である。また、時代の先端を行くような人材を育成する企業の環境について、SMAの調査結果についても紹介した。この調査は今後も続けていくので、読者の皆さんにはぜひともご協力をいただきたいところである。本稿が皆さんの参考になれば幸いである。
【引用文献】
*1)「資本主義、社会主義、民主主義?」、ヨーゼフ・シュンペーター著、大野一訳、日経BP、2016.7
*2)「経済発展の理論」(上)、シュムペーター著、塩野谷・中山・東畑共訳、岩波文庫、1977.9
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