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“ポストピラミッド構造”時代の中堅企業、グローバル化の道を拓くにはイノベーションは日本を救うのか(28)(1/2 ページ)

製造業界では長らく、”ピラミッド構造”が存在していた。だが、その産業構造は変わり始め、ティア1以降の中堅企業が、自らの意思で事業のかじ取りをしなくてはならない時代になりつつある。中小企業がグローバル展開を見据える場合、どのような方法があるのだろうか。

» 2018年08月08日 11時30分 公開
[石井正純(AZCA)EE Times Japan]

「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」バックナンバー

変わり始めた“ピラミッド構造”

 今回は大手企業を離れ、中堅・中小企業に焦点を当ててみたい。

 愛知県や大分県など、中部や九州には、自動車などを含め、製造業のいわゆるティア1、ティア2、ティア3のメーカーが数多く存在する。

 何十年も前の高度成長時代には、特に製造業の産業構造は、がっちりとしたピラミッド構造だった。自動車でいうなら、トヨタ自動車などがピラミッドの頂点に立ち、そこからティア1、ティア2、と裾野が広がっていくのである。

 だが最近は、そういった傾向が薄くなっている。ピラミッドの頂点に位置していた企業も、ティア1以下のメーカーに対し、自分たちで事業を開拓していってほしいとする考え方も出てきているのだ。

 一方で、こうした傾向はティア1以下のメーカーにとっては課題にもなっている。これまでは、顧客からの要件に従い、それに沿った製品をそつなく開発、製造していれば、堅調にビジネスを維持することができていた。そのような企業が突然、「自ら自分のビジネスのかじ取りをしてくれ」と言われたら、戸惑うのも当然だろう。これまで、完全に主体的なビジネスを行うという経験はなかったからだ。マーケティング部門を持たない企業さえある。

 さらなる課題がマーケットだ。分野によっては、国内市場は難しい。既に飽和状態にあることも珍しくないからだ。となれば、グローバル市場に目を向けるしかなくなる。だが、言葉や文化の違いもあるし、国内市場以上にハードルが高いと感じることも多いだろう。

中堅・中小企業がグローバル展開するには

 一体どうすればよいのだろうか。

 筆者は、大きく2つの方法があると考えている。

 1つは既存事業の海外展開だ。もう1つが、外部から新しい製品を取り入れて、それを、国内も含めて新しく展開していくことである。これらを片方、もしくは両方行う必要があるのではないだろうか。

 1つ実例を挙げよう。名古屋市に、「東朋テクノロジー」という企業がある。

「紅葉屋」時代の写真。横浜で海外との貿易を行ったころの三代目富田重助重政(前列右) 写真:東朋テクノロジー

 江戸時代に創業を開始した、化粧品や雑貨類、食用油などを取り扱う紅葉屋(もみじや)という店を起源とする、大変に歴史の古い会社だ。紅葉屋は、尾張藩御用商人として確固たる地位を築き、幕末の嵐の中で果敢に事業に挑戦していった。

 19世紀後半の明治維新の時代には、先見性に秀でた当時の当主、三代目富田重助重政(とみた じゅうすけ しげまさ)は、これからの商売には貿易が重要だと気付いた。そこで、げたを履いて横浜に赴き、貿易を始めたのである。外国から仕入れた毛織物を大量に扱い、それが紅葉屋を繁栄に導いたのだ。

 戦後は、東亜工業(現在の東朋テクノロジーの商事部門の起源)が、日立製作所と特約店契約を締結。ここから、日立グループ関連会社の総合代理店への道を歩み始めた。現在は、米KLA-Tencorから液晶検査装置や、半導体検査装置の製造・販売権を取得するなどしている。

 現社長の富田英之氏は、もともと商社に勤めていた人物だ。そこで修業をして、社長に就任した。同氏は、「単なる商社ではなく、モノを作るところを含めて事業展開していく」という考えの持ち主である。

 実は東朋テクノロジーは、医療機器の分野に展開したい、というのが目標の1つとしてあった。このため、2015年には、医療用画像機器を手掛ける日本のダイトーマイテックの株式を100%取得し、子会社化している。

 2017年には、米国の医療技術大手であるBD(Becton, Dickinson and Company)と独占ライセンス契約を締結。食品病原菌検出技術のライセンス供与を受けて、食品業界に向けて最先端の検査システムの開発に着手している。

 言うまでもなく、医療分野にコネなく新規参入するのは非常に難しい。生命に関わる医療機器は、当然ながら承認審査も厳しい。だが、それらの医療機器を殺菌、滅菌するような機器であれば、比較的市場に入りやすい。東朋テクノロジーは、BDとのライセンス契約により滅菌システムの開発に着手することで、こうした医療分野へとつながる道を見いだしたのである。

 さらに、産業IoT(モノのインターネット)の分野でいうと、機械の予知保全の市場を狙っている。2018年7月には、故障予兆診断ソフトウェアを手掛ける米国のベンチャー企業GPMSとライセンス契約を締結。東朋テクノロジーの振動センサーなどと組み合わせ、産業用設備の故障予兆診断システムを2018年内にも発売する予定だ。

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