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“ポストピラミッド構造”時代の中堅企業、グローバル化の道を拓くにはイノベーションは日本を救うのか(28)(2/2 ページ)

» 2018年08月08日 11時30分 公開
[石井正純(AZCA)EE Times Japan]
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中堅・中小企業ならではの強みを生かす

 このように、東朋テクノロジーは、グローバル展開に向けて数多くの取り組みを積極的に行っている。

 中堅企業では、前社長の子どもたちの世代が国際的な場で経験を積んでいる場合、新しいことに挑戦しようとしていることが多い。東朋テクノロジーの場合は、現社長自らも積極的に動いている。富田氏は先日、イスラエルのスタートアップ企業約10社と面談してきたそうだ。さらに、社長室の中にIIoTの部署を作るなど、新しいことを率先的に若い跡取りにやらせようとしている。富田氏はAZCAにもしょっちゅう出入りし、新しいプロジェクトをどうするか、などについて議論している。

 同じ名古屋市の企業に、朝日インテックがある。もともとはステンレスロープを手掛けてきた企業だが、現在は、ステンレスロープのビジネスで蓄積してきたノウハウを生かし、治療用のガイドワイヤーを中心としたカテーテル治療用の医療機器を手掛けている。この朝日インテックの社長も、積極的に多角化を図ってきたトップの1人だ。そのために、北米のベンチャー企業に投資もしている。

 年間売上高が数百億円規模の中堅企業は、膨大な金額を動かすことはできなくても、大手企業に比べると決定的な強みがある。それが、スピードだ。オーナー企業だから、1億〜2億円の規模であれば、ぱっと決断し、ぱっと動くことができるのである。これは、大手ではなかなか実現できないスピードだ。この意思決定のスピードは、国際的に事業を展開する上で、大きな利点となるだろう。

 中堅企業も、攻め方さえ間違わなければ、シリコンバレーの新しい技術を取り入れたり、米国で事業展開したりすることは可能なのだ。それをぜひ、覚えていていただきたい。

グローバル展開を県がトータルサポート

 中小企業のグローバル展開を県がサポートするというケースもある。

 例えば神奈川県だ。実は神奈川県では、中小企業のグローバル化を、県が支援しているのである。神奈川県は、神奈川産業振興センターと協力し、ベトナムの首都ハノイ近郊にある工業団地内の一部を「神奈川インダストリアルパーク」として活用し、神川県内の中小企業の海外展開をトータルで支援している。同パークにはレンタル工場があり、食堂も完備されている。神奈川県に拠点を持つ多摩川電子やダイニチ電子が、神奈川インダストリアルパークに入居し、生産を本格的に開始している。

 別の例として大分県の「おおいたLSIクラスター構想」が挙げられる。

 今から5〜6年前、大分県の半導体産業は揺れに揺れていた。米Texas Instruments(TI)の日本法人である日本TIが所有していた大分・日出工場を閉鎖し、従業員500人を解雇することになったのだ。さらに、2015年には東芝がCMOSイメージセンサーの生産拠点をソニーに売却した。

 こうした動きで、地元の中堅の協力会社は非常に動揺してしまった。“親亀”から突然、手を放されたのだ。だからと言って、いつまでも右往左往しているわけにはいかない。大分県は、半導体製造に必要な評価工程(テスティング技術)を中核とし、技術情報の発信やカウンセリングを行う「おおいたLSIクラスター構想」を打ち立てている。ここでも、大分の企業を世界展開させることを目的に、専門の部会を立ち上げ、新技術開発やその事業化、ビジネスマッチング、技術者同士や大学とのネットワークづくりなどをトータルでサポートする体制を作っている。

「おおいたLSIクラスター構想」の概念 出典:大分県LSIクラスター形成推進会議

 神奈川県や大分県のこうした事例は、中小企業がグローバル化をする上では、こうした方法もあるのだということを教えてくれる。

 頼りにしていた“親亀”がいなくなった時、自力でどう事業展開をしていくのか――。今回紹介した事例からは、中小企業や自治体も、さまざまな取り組みに挑戦していることが見て取れる。これまでと同じことを続けていると、いずれは息切れし、衰退を招く可能性もある。道をひらく方法は、いくらでもあるのだ。


「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」連載バックナンバー


Profile

石井正純(いしい まさずみ)

日本IBM、McKinsey & Companyを経て1985年に米国カリフォルニア州シリコンバレーに経営コンサルティング会AZCA, Inc.を設立、代表取締役に就任。ハイテク分野での日米企業の新規事業開拓支援やグローバル人材の育成を行っている。

AZCA, Inc.を主宰する一方、1987年よりベンチャーキャピタリストとしても活動。現在は特に日本企業の新事業創出のためのコーポレート・ベンチャーキャピタル設立と運営の支援に力を入れている。

2005年より静岡大学大学院客員教授。2012年より早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授。2006年より2012年までXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所(2007年会頭)、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。

2016年まで米国 ホワイトハウスでの有識者会議に数度にわたり招聘され、貿易協定・振興から気候変動などのさまざまな分野で、米国政策立案に向けた、民間からの意見および提言を積極的に行う。新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。


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