図2は、iPhone XS内部のデバイス分布と処理基板を取り出した様子である。内部は上記で述べたように大きく4つのパーツに分かれている。カメラは外側向きのデュアルカメラと、正面向きの赤外線、RGB、ドットプロジェクターで構成されている。正面カメラは顔認証に使われる。カメラに連結される形で処理基板が配置される。処理基板には大きく2つの役割がある。コンピューティング処理と通信処理だ。
またスマートフォン内で熱源となる基板と電池の間は基板端子が並ぶことで熱源同士の距離を離す役割も担う構造になっている。図2中、着色していない白い部分がそれにあたる。
図2の下部に2つの基板の写真を掲載した。実際には2つ重ねて配置されており、機能は大きく分かれている。通信基板には各種通信用チップと、通信に必要なパワーアンプやフィルターが搭載される。LTEや3Gのような広域データ通信には、Intelのチップセットが搭載される。チップセットはモデムプロセッサとRFトランシーバ、電源ICの3点セット。さらにWi-FiやBluetoothなどのローカル通信、NFC近距離通信が通信基板に搭載されている。通信基板とコンピュータ(機能処理)基板は積み重ねによって接続されているが、通信基板側はあくまでも通信に関与したものだけになっている。通信基板にもコンピュータ基板以外にも接続される端子が存在するが通信基板に割り当てられた外部端子の先はアンテナにつながるのみ。iPhone XSの通信基板は完全に通信機能だけしか任されていないというわけだ。
通信は文字通り通信。今後も方式が進化し5Gや周波数の高い領域での通信技術が次々とスマートフォンに取り込まれていくと思われるが、ノイズ影響や干渉を受けにくい別基板に分ける構造は理に適っている。通信とコンピュータ処理を完全に基板で分離しているという点で、iPhone X/iPhone XSは一歩先んじた構造を持つとみるべきだろう。
図3は、2017年のiPhone Xのコンピュータ基板と、2018年のiPhone XSのコンピュータ基板の比較である。基本構造は同じだ。基板のサイズも大きくは変わらない。基板中央にメインのプロセッサが搭載され、周囲に多くの機能チップが並んでいる。またプロセッサは基板横のカメラユニットにも直結される。集中制御の形になっている。
プロセッサの電力を最適化するための電源ICや各種センサーもプロセッサを取り囲む。基板の裏面にはストレージメモリが搭載されている。ここで機能処理の全ては行われていることになる。通信基板はあくまでも通信として分離され、データの送受信と圧縮伸長だけしか任されていないように見えてくる。音を出すためのオーディオコーデックやオーディオパワーアンプもiPhone XSではコンピュータ基板に全部搭載されている。オーディオは、スマートフォンにとって生命線の一つとも言える機能だ。2017年のiPhone Xではオーディオパワーアンプは通信基板に搭載されていたが、iPhone XSではコンピュータ基板に移された。
通信基板はオーディオ関連パーツまで失い、ますます通信だけの基板になったわけだ。
かといって、通信基板はただの土管になったわけではない。SIMカードホルダーやワイヤレス給電用のバッテリーチャージャーICなど外部との接点となる部位も持っているので、こうした経路でのセキュリティ機能はきちんと持っている。
iPhone XSは機能で完全に基板が分かれたことになる。コンピュータ基板にはプロセッシング、センシング、ストレージメモリー、オーディオが集中した。メインプロセッサ「A12 BIONIC」は7nmプロセスで製造され、Appleの発表では69億トランジスタを搭載。既にテカナリエではA12を丁寧に開封して内部の構造解析なども終わらせている。この膨大な回路を有するプロセッサがOS処理、ソフト処理、画像処理、AI処理までを一手に担っているわけだ。毎年30種あまりの先端プロセッサのチップ開封を行い、表に並べて横並び評価をしているが、2018年を代表するプロセッサのトップ3に間違いなくA12には入るだろう。
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