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東北大学、FeSn薄膜で柔軟なホール素子を実現磁石の異常ホール効果を活用

東北大学金属材料研究所は、鉄スズ(FeSn)磁石の微結晶薄膜を室温で作製し、これがフレキシブルな磁気センサー(ホール素子)として利用できることを実証した。

» 2019年03月05日 10時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

曲げた状態でセンサー素子が正常に動作

 東北大学金属材料研究所の藤原宏平准教授と佐竹遥介大学院生、塩貝純一助教、関剛斎准教授および、塚粼敦教授らによる研究グループは2019年2月、鉄スズ(FeSn)磁石の微結晶薄膜を室温で作製し、これがフレキシブルな磁気センサー(ホール素子)として利用できることを実証したと発表した。

 磁気センサーは、半導体の正常ホール効果を利用したホール素子が一般的である。これに対して最近は、磁石の異常ホール効果を活用した新型ホール素子も注目されている。ただ、新型素子は磁場を電気信号に変換する性能に劣るという。このため、その応用はバルク単結晶や低温環境での利用にとどまっていた。磁場とホール電圧が単純な比例関係にないことも課題となっていた。

 そこで研究グループは、室温で大きな異常ホール効果を示すことが報告されている「Fe3Sn2」に着目。FeとSnの組成を調整しながら、スパッタリング法による薄膜作製に取り組んだ。この結果、微結晶性のFeSn薄膜において、バルク単結晶に匹敵する大きな異常ホール効果を観測することができたという。

左はサファイア基板上に作製したFe0.6Sn0.4微結晶薄膜の異常ホール効果(室温)。右はホール素子の検出感度変化率と温度の関係 出典:東北大学

 この薄膜は、磁石の性質として薄膜面内に磁化容易軸を持つが、薄膜面に垂直な磁場が与えられたことで、その磁場に比例した磁場−ホール起電力特性を示すことも分かった。しかも、ホール素子としての感度係数は、−75〜125℃の広い温度範囲において、プラスマイナス数パーセントのわずかな変動にとどまることも明らかになった。このことは、「金属強磁性体薄膜の異常ホール効果が実際に応用できる」ことと、「素子単体で高い温度安定性がある」ことを示す値だという。

 さらに、基板材料として高分子PENシート(ポリエチレンナフタレートシート)を用いてホール素子を作製し、その動作を検証した。この結果、ホール素子としての特性は維持されていることを確認し、曲げた状態でもセンサー素子が正常に動作することを実証した。

左は高分子PENシート上に形成したFeSn薄膜の写真、右はPEN上に形成したFe0.6Sn0.4ホールバー型素子の曲げ状態における異常ホール効果測定の様子 出典:東北大学

 研究グループは今後、感度係数のさらなる向上など、特性の改善に取り組む計画だ。FeSn薄膜は安価で毒性も低く、量産性にも優れているという。このため、異常ホール効果を用いた新型ホール素子の研究開発と、その応用が加速するとみられる。

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