世界半導体市場は堅調に推移している。だがそれは特定の分野や企業の成長に大きく偏っている。特に、米国による関税政策で不確実性が増加していて、各社は成長予測に慎重になっている。
世界半導体売上高は前年同期比で堅調に成長しているにもかかわらず、直近の前四半期比の減少は、市場の減速あるいは通常の水準に戻る可能性があることを示している。この落ち込みは、好調な年間業績に隠れた根本的な複雑さを示唆している。
財務面では、こうした二面性を反映して、主要プレーヤーの業績報告はそれぞれ異なる様相を呈している。AI、高性能コンピューティング(HPC)、電気自動車(EV)に深く関与している企業は、引き続き堅調な業績を示している。
例えば、AMDはAIの好調な売上高見通しを予測しており、onsemiはEVメーカーからの堅調な需要を報告している。しかし、この好況は全てのセグメントに広がっているわけではない。
関税圧力によって引き起こされる重要な短期的動向は「関税フロントローディング」または「関税前引取り」で、これらは顧客が差し迫った貿易制限や価格上昇に先手を打つために購入を加速させる現象である。
これは、サプライチェーン管理をより効率的な「ジャストインタイム」アプローチから、よりコストのかかる「ジャストインケース」アプローチへ移行することを意味している。この移行は、貿易環境の予測が不確実であることによって引き起こされている。
「関税前引取り」現象は、現在の業績に影響を与えている。台湾のInventecは2025年4月の売上高が過去最高を記録したと報告したが、これは明らかに、顧客が関税引き上げの可能性に先立って部品の在庫を増やしたことと、サーバの出荷が好調だったことで引き起こされたものだ。TSMCの4月の売上高が好調だったのもこうした傾向を反映していて、AMDの第2四半期予想が予想を上回ったのも、顧客が関税引き上げに先立って購入したことによるものだ。
こうした備蓄は、ブルウィップ効果を生み出し、短期的な売上高を人為的に押し上げる一方で、将来の需要低迷や在庫調整といった大きなリスクをもたらす。このような動きは、将来の貿易政策の安定性に対する深刻な不確実性を示しており、企業は最終市場の需要と一致しない可能性のあるコストのかかるヘッジを余儀なくされる。
半導体業界は地政学的な駆け引きの中心にあり、貿易摩擦と国家安全保障上の懸念がサプライチェーンと企業戦略を大きく変化させている。国家安全保障上の懸念によって引き起こされた米国の先進AI半導体技術に対する輸出規制は、定量的な影響を及ぼしている。
戦略的対応は多面的で、特にサプライチェーンの現地化と多様化への多額の投資を伴う。Huaweiは、国内に新たな製造工場を建設することで、自給自足を積極的に追求している。台湾Wistron、Inventecの他、Intelなど欧米の競合企業は、米国と欧州で製造拠点を拡大している。
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