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コロナ禍の先を見据えよ ――緊急事態宣言下の今、考えるべきこと大山聡の業界スコープ(28)(2/2 ページ)

» 2020年04月10日 11時30分 公開
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立ち後れを繰り返さないために

 不況になれば企業の業績は悪化し「経費を削減しろ」「リストラをしろ」という号令がかかる。これはどこの地域でもどの企業でも同じことだ。しかし、それだけやっていたのでは企業の規模が小さくなるだけで、市況が好転したときに「攻めの手」を打てない。逆風が吹いているときにやるべきことは、経費削減やリストラなど「守りの戦略」だけでなく、どこで売り上げや利益を伸ばすかという「攻めの戦略」を事前に綿密に練り上げることが不可欠なのだ。

 IT業界で言えば、クラウド、Androidといった単語が頻繁に使われるようになったのはリーマンショックの直後からである。時期を同じくして、Google、Apple、Facebook、Amazonなどの注目度が急速に高まり、IT業界の勢力図は直近の10年間で大きく変わった。筆者自身、当時富士通グループに在籍していながら具体的な戦略立案に貢献できなかったのだから、ここで偉そうなことを申し上げる資格があるのかどうか極めて疑わしいが、「景気が好転するだけでなく、世の中の動きが目まぐるしく変化する中で、われわれはこのままではダメだ、富士通半導体の事業方針を根底から立て直す必要がある」という思いだけは強く持っていた。残念ながらその思いを実行に移す権限がなかった。仮に実行できたとしても、それが成功したかどうかは誰にも分からない。ただただ、市況が好転した後に会社が具体的な施策を打ち出せなかったことが悔しかった。

より進化した現実を手に入れる努力を忘れてはならない

 話を現在に戻すと、日本では緊急事態宣言が発令されて、少なくとも1カ月は不要不急の外出を控えることを国や都道府県から強く要請されている。オリンピックは1年の延期が決定され、プロ野球やJリーグの開催めどは立っていない。われわれビジネスマンも在宅勤務を要請され、休業を余儀なくされている飲食店の数は計り知れない。こうした事態が日本だけでなく、世界中の国々で起きているのだから、経済的な打撃がリーマンショックを上回ることは間違いないだろう。国や地域によって被害状況、感染状況が異なるので、いつになったら終息するのか極めて予想しにくい状況ではあるが、相対的に被害や感染状況が軽微な日本の場合、1カ月や2カ月の間辛抱すれば、徐々に日常生活を取り戻せる可能性が高い。甚大な感染被害に見舞われている米国や欧州諸国には申し訳ないが、日本が相対的に早く正常を取り戻し、他国に対して支援できるような状態を目指すのは、かなり現実的な話だと思われる。その際、単に日常を取り戻すだけでなく、コロナ騒動の前とは違う何かを求め、より進化した現実を手に入れる努力を忘れてはならない。本連載の前回記事で「5G/IoT/AIの活用」について述べたが、これらの実用化はコロナ対策にも極めて有効な手段であり、緊急事態宣言の期間こそ、具体的な実用化戦略を積極的に立案する良い機会だと思うべきなのだ。

 読者の皆さんも、閉塞感の漂う毎日を過ごしておられることと思われるが、リーマンショックの時のような日系企業の出遅れ、日本市場の立ち後れを繰り返さないためにも、少なくとも国内のコロナ終息が見えた時点で良いスタートが切れるように、今この時間を大事にされることをお勧めしたい。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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