今回は、まだCOVID-19の感染拡大が続く2021年の半導体市況をどのようにみるべきか、分析してみたい。
昨年(2020年)は新型コロナウィルス感染症(以下、COVID-19)に振り回され、見通しが大きく狂った1年であった。かくいう筆者も1年前は「システムオンチップ(SoC)開発のための新会社を立ち上げる」などと息巻いていたが、計画倒れに終わってしまった。原因には諸々の事情があるが、やはりCOVID-19の影響を否定することはできない。再チャレンジを諦めたわけではないのだが、計画が具体化できない現段階においては、いったん白紙に戻したことをここで報告させていただく。
今回は、まだCOVID-19の感染拡大が続く2021年の半導体市況をどのようにみるべきか、分析してみたい。
WSTS(世界半導体市場統計)の最新予測(2020年12月発表)によれば、2020年の金額ベースの前年比成長率は5.1%で、2021年は同8.4%としている。2020年の見通しについてはすでに2020年11月までの実績が出ており、この数字に異存はない。だが、2021年の予測についてはいくつか着目すべき点があるので、一つずつみていきたい。
上表はWSTSが発表した半導体製品別予測で、ディスクリート、光半導体、センサー、トータルICの予測が紹介されている。
ディスクリートは2019年、2020年と若干のマイナス成長だが、2020年の後半から着実な回復をみせており、2021年は2017年、2018年のような2桁成長が期待できるのではないか、という勢いがある。2017年、2018年当時は車載需要が旺盛だったが、2021年にこれが復活できるかどうかがカギになるだろう。アプリケーション別の見通しについては後述するが、筆者としてはWSTS予測(7.2%成長)を上回る10%前後の成長が期待できると予測している。
2020年は久々のマイナス成長に終わりそうな光半導体は市場の約半分を占めるイメージセンサーの動向がカギを握っている。イメージセンサー市場で約50%シェアを誇るソニーは、2020年はスマホ向けの需要が伸び悩み、さらに2020年9月15日以降Huawei向けの出荷が止められたことが打撃となった。だが、2021年はスマホ市場の反動的な回復が期待できる、と筆者は予測している。WSTS予測(10.2%成長)にも同意である。
では、IC市場全体をどうみるべきだろうか。
ICはアナログ、マイクロ、ロジック、メモリに類別される。
アナログIC市場は、2020年は横ばいの見通しだ。これは前半のマイナス成長を後半のプラス成長が打ち消している結果である。この流れが続けば2021年は2017年、2018年のような2桁成長も十分可能だろう。アプリケーションとしてはAV機器向けがけん引していたが、2020年10月以降はスマホ向けや車載向けも需要が回復している。2021年はWSTS予測(8.6%成長)を上回るのではないだろうか。
マイクロ市場は、2020年は2.0%成長という微増の見込みだ。これは前半の2桁成長を後半のマイナス成長が打ち消すという、アナログIC市場とは対照的な動向の結果である。この市場の代表格であるIntelが、2020年1〜3月期に前年同期比23%増、4〜6月期に同20%増で推移していたにも関わらず、7〜9月期は同4%減、年間見通しも同5.0%増に留まるというコメントを2020年10月に発表しており、2021年にもあまり強い期待を寄せられない見込みである。WSTS予測(1.0%成長)は無難な数字といえるだろう。
ロジックICは、2020年は6.5%成長の見込みで、2020年10月、11月と連続して2桁成長を記録している。この勢いが2021年のどこまで継続されるかが見どころである。特にスマホ向けのアプリケーションプロセッサの出荷は10月、11月と前年同月比で30%以上伸びており、第5世代移動通信(5G)対応機向けの需要が急速に伸びていることを反映している。2021年のWSTS予測(7.1%成長)は、やや保守的であり10%前後の成長が期待できるのではないか、と筆者は予測している。
メモリ市場は、2020年は12.2%成長の見通しだ。自分自身の1年前の記事を読み返してみると「2020年は40%前後の成長が見込める」と強気な予測を主張していた。これまでのメモリサイクルのパターンを見ても、2020年1月時点の製品単価の上昇傾向を見ても、それだけの強気予測を裏付ける根拠は十分にあったのだ。しかしCOVID-19の影響でマクロ経済の見通しが全て狂ってしまい、これがメモリ市場にも影響したと見るべきだろう。「コロナ禍にあっても半導体市場は堅調だ」などと言われているが、実際には「COVID-19の影響を受けて成長率が1桁に留まった」のだ。スマホが売れない、クルマが売れない、といったアプリケーションの動向は半導体市場にも間違いなく影響しており、変動の激しいメモリ市場への影響が特に大きかったといえる。
筆者としては「2020年に盛り上がる予定だったメモリ市場の活況は2021年に持ち越す」と申し上げたいところだが、2020年11月時点でDRAM市場はプラス成長こそ維持しているものの10%前後の成長と低迷しており、NAND型フラッシュメモリ市場はついにマイナス成長に落ち込んだ。いったんマイナスに落ち込んだメモリ市場は1年以上経過しないとプラスに転じないのがこれまでのパターンだが、下降局面にありがちな単価ダウンがほとんど見られない。DRAMの単価動向も小康を保っている。言い換えれば、ビット需要が回復すれば2021年は活況になる、という見方も十分可能なのである。WSTS予測(13.3%成長)は中途半端な数字にみえる。ただ、強気にみるにも弱気にみるにも根拠が不足している現状を考えれば、筆者としてもこの予測に同意して、しばらく様子をみるしかない、というのが本音である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.