物質・材料研究機構(NIMS)の関口隆史グループリーダーらの研究チームは、高品質かつ低価格を実現できる太陽電池用のモノシリコン(単結晶シリコン)育成に成功した。研究成果は太陽電池の競争力向上に加え、ワイドギャップ材料に匹敵するシリコン素子の開発につながる可能性が高いとみられている。
物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点ナノエレクトロニクス材料ユニットの関口隆史グループリーダーと、九州大学 応用力学研究所の柿本浩一教授らの研究チームは2015年10月、高品質かつ低価格を実現できる太陽電池用モノシリコン(単結晶シリコン)の育成に成功したことを発表した。今回の研究成果は太陽電池の競争力向上に加え、ワイドギャップ材料に匹敵するシリコン素子の開発につながる可能性が高い。
今回開発したのは、「シングルシードキャスト法」と呼ばれる、種結晶を使ったシリコンの新しい鋳造法である。開発した鋳造法は、るつぼの中でシリコンを溶解し、小さな種結晶から単結晶を成長させる技術である。特に、種結晶をるつぼ底全面に敷くのではなく、床の中央部に置いた一個の種結晶から単結晶を成長させることで、原料コストを抑えることが可能となる。また、電気炉内部の構造を工夫し、鋳造を行う電気炉の熱分布と温度管理に結晶成長を任せられるようにした。
この製造方法を用いて、結晶品質に優れた、不純物の少ない単結晶シリコンのインゴットを成長させることに成功した。従来の半導体用シリコン単結晶を製造する方法に比べて、原料と製造のコストを下げることが可能になるという。この鋳造法で課題となっていた炭素や窒素、酸素などの軽元素不純物の混入も極限まで抑えた。これにより、CZシリコン結晶に迫る結晶品質を実現することができた。
シングルシードキャスト法で育成した単結晶シリコンウェハーを用いて、太陽電池を試作したところ、最大で18.7%の変換効率が得られた。半導体用無転位単結晶(CZシリコン)ウェハーを用いた太陽電池も同時に評価したところ、その変換効率は18.9%であり、ほぼ同等の変換効率となった。
今後、結晶欠陥と不純物の影響をさらに抑えることができれば、CZシリコンの変換効率を上回る可能性もあるとみている。研究グループでは、鋳造モノシリコン中の酸素濃度を6ppm程度に下げることにも成功した。酸素析出物の影響をなくすことで、CZシリコンと同等の変換効率を実現することができた。同時に酸素析出を促進する炭素不純物濃度や転位密度を下げることにも成功している。これによって3000個/cm2程度の転位が存在していても、高い変換効率を達成することができるという。
現在の製造設備を活用して、外形寸法が50×50cmのインゴッドまで成長させることが可能である。今後は開発した技術やその派生技術を、日本の太陽電池メーカーに移転していく予定である。
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