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NVIDIAのArm買収、大手3社が反対を表明かBloombergが報じる(2/2 ページ)

» 2021年02月22日 10時45分 公開
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データセンターにおける脅威とチャンス

 分散コンピューティングが著しい成長を遂げ、高速ネットワーキング技術によって仮想マシンやマイクロサービスの活性化が維持されているなど、Armにとってはデータセンター分野において貴重なチャンスが生み出されている。このためNVIDIAは、Arm買収によって、自分に有利な情勢を再形成することが可能になるという、桁外れに大きいチャンスを得ることになる。NVIDIAにとっては、競合他社に打ち勝つことがますます困難になっている状況の中、非常に時宜にかなっているといえる。

画像はイメージです

 NVIDIAはこれまで、データセンターにおける新しいチャンスに対応してきたが、それは他の企業も同じだ。NVIDIAは2020年春にMellanoxを70億米ドルで買収し、新たに入手した「SmartNIC」機能を利用して、新しいデータ処理装置(DPU:Data Processing Unit)「Bluefield-2」を開発した。Bluefield-2はArmベースであるため、システム開発者は、NVIDIAが近々発表を予定しているSDK(ソフトウェア開発キット)「DOCA」を使用してプログラムできる。

 DOCAは、アダプターをDPUプラットフォームにロックできるようサポートすることが可能だ。NVIDIAのSDK「CUDA」が、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)に初期段階に搭載されていたGPUをサポートしていた時と、ほとんど同じ手法だという。しかしDOCAのBluefield-2は、これとは異なり、CUDAを適用したNVIDIAのGPUと同じロックイン性能も備えていない。その理由の一つとしては、さまざまな代替手法が存在するものの、その多くが同じArmアーキテクチャで構築されているということがある。

 現在台頭しているGPU競合メーカーから、FPGA/ASICのサプライヤー各社まで、あらゆる企業が利益の大きい市場に狙いを定めていることから、NVIDIAのAI分野における主導権は、ますます攻撃の的になっている。また、PyTorchやTensorFlow、Caffeのような高レベルのオープンソースツールの人気が高まっていることも、開発におけるCUDAの支配力を緩めることによって市場を開いていく上で、後押しとなっている。

 NVIDIAにとってさらに事を複雑化しているのが、データセンター向けチップ最大の潜在顧客企業であるAmazonのAWS(Amazon Web Service)とMicrosoftのAzure、GoogleのGCP(Google Cloud Platform)がいずれも、ArmベースのDPUと同様に、AI向けASICを独自開発しているという事実だ。

 NVIDIAは、Armを統合することによって、多種多様な手段を意のままに使い、自社の半導体チップに不当な優位性を与えることが可能になる。率直に言えば、NVIDIAが本当に使いたい時に使うことが可能だ。

 例えば、NVIDIAはDOCAを通じて、Armの次世代64ビットサーバアーキテクチャの最新機能への早期アクセスを提供するかもしれない。また、NVIDIAのGPUをAIのトレーニングや推論のために利用することで、この分野のビジネスを競合から隔離することもできるだろう。

 これらの可能性を統合すると、クラウドベンダーが自社のシリコン設計に投資し続けるモチベーションが低下する可能性がある。また、Armの開発のほとんどがデータセンターに集中すれば、スマートフォンや自動車、IoTのプレイヤーの中には、より良い技術を求めて離れていく企業も出てくるだろう。そうなれば、市場での選択肢が減り、価格が高くなってセキュリティが浸食される恐れにつながる。

 NVIDIAがArmに巨額の買収提案をしたことも何ら不思議ではなく、また、多くの経営幹部がこの取引に難色を示すのも不思議ではない。こうした反発は、われわれの耳には届かない所で起こっている可能性がある。そして、Huang氏にもそうした反発の声は届かないのかもしれない。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

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