合併/買収の調査を行う規制機関である英国の競争・市場庁(CMA:Competition and Markets Authority)は、NVIDAがArmを400億米ドルで買収する案件について、調査を開始したという。
合併/買収の調査を行う規制機関である英国の競争・市場庁(CMA:Competition and Markets Authority)は、NVIDAがArmを400億米ドルで買収する案件について、調査を開始したという。
CMAは調査の第1段階として、関係者たちに対し、競争に関して検討すべきあらゆる課題について、パブリックコメントを募集している。これは、もし今回の買収が実行された場合に、英国内の1つまたは複数の市場において、競争が大幅に減少することになるのかという点に関する調査の一環だという。CMAは、今回の買収が英国内の競争に対して及ぼすであろう潜在的影響について検討していく。また、Armが今回の買収に伴い、NVIDIAのライバル企業に対して、値上げしたり、自社のIP(Intellectual Property)ライセンスサービスの品質を低下させたりするなど、何らかのインセンティブがあるのかどうかについても考察していくとみられる。
CMAのチーフエグゼクティブを務めるAndrea Coscelli氏は発表資料の中で、「半導体業界は、今やその価値を数十億米ドル規模に拡大し、誰もが毎日の生活の中で最も多く使用しているさまざまな製品にとって、不可欠な存在となっている。われわれは、世界各国の規制当局と密接に連携することにより、今回の買収の影響について慎重に調査を進め、最終的に消費者が、より高額かつ低品質な製品に直面するというような結果に終わることを確実に回避したい」と述べている。
CMAは、法的に付与された権限に基づき、企業合併によって競争面にもたらされる潜在的影響について調査を行う。ただし、例えば雇用や産業戦略など、競争以外の潜在的影響に関しては調査することができない。また英国政府にとっては、いかなる国家安全保障上の懸念も問題であるため、適切な場合は公益介入通知(Public Interest Intervention Notice)を発動することが可能だ。
こうしたことから、CMAが2021年1月4日の週から開始している調査は、2021年後半に予定されている正式調査に先立ち、関係する第三者たちに対して、今回の買収が英国の競争に及ぼすであろう影響についてコメントするための最初のチャンスを提供することになる。コメントの受付は2021年1月27日まで。コメントの送付先などの詳細については、こちらを参照のこと。
英国のエレクトロニクス業界は、十分に強力な声を上げることができるだけでなく、政府の中の支援者たちが、英国の技術業界を外国資本から保護することについて大いに騒ぎ立てることも可能だ。例えば、筆者が2020年9月に報じたように、Armの創設に携わった人物であるHermann Hauser氏とTudor Brown氏の2人は、強力なロビー活動を行っている。両氏は、「このような買収が実行されれば、英国は技術業界における重要資産を失い、それを米国に明け渡すことになる」との懸念を示していた。
Hauser氏は、2020年にNVIDIAによるArm買収が発表された時、「英国ケンブリッジだけでなく、欧州全体に災いをもたらすことになるだろう。世界とのつながりを持つ欧州最後の技術メーカーであるArmが、米国に売却されようとしているのだ。もし本当に買収が成立すれば、Armの『半導体業界の中立国』としての位置付けが、危険にさらされることになる。AppleやSamsung Electronics、Qualcommなどをはじめとする数百社ものメーカーが、Armアーキテクチャを使って独自チップを開発することができるという環境が、脅かされるということだ。また、Armの英国気質やオープンなビジネスモデルを保護することが不可能ならば、ジョンソン首相は、ロンドン証券取引所の浮動株を強化すべきだろう」と述べている。
GraphcoreのCEO(最高経営責任者)であるNigel Toon氏は、2022年に予定しているIPO(新規株式公開)に先立ち、2億2200万米ドルの資金を調達したところだ。同氏はFinancial Timesのインタビューの中で、自身の見解について、「NVIDIAがArmを400億米ドルで買収することになれば、競争や市場全体、英国において、悪影響がもたらされることになる。反競争的な買収であるため、市場の力が大手プレイヤーの手中に収められることにより、市場全体の競争が失われるだろう。また半導体メーカーは、ArmがNVIDIAの一部に統合され、自社のロードマップをNVIDIAと効果的に共有しているということを知りながら、この先4年間のロードマップをArmと共有したいと思うだろうか」とコメントしている。
もちろんToon氏は、Graphcoreが直接NVIDIAと競合関係にあるという点を考慮して、こうした懸念を表明しているのだ。しかし同氏は、業界の他のメーカーも恐らく疑問に思うであろう問題を提起している。
だが、NVIDIAのJensen Huang氏とArmのSimon Segars氏は当然、このような内容の議論が展開されることを想定していただろう。そして、それを切り抜けるべく、長い戦いを繰り広げていくための態勢を整えているはずだ。筆者が「NVIDIA CEO「買収完了に自信」、業界は懸念」で指摘したように、Huang氏は、この先厳しい戦いが待ち構えているにもかかわらず、さまざまな利害関係者たちを説得することができると確信している。このため、まだ代替策すら検討していないようだ。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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