米国ではグラファイトを生産することができず、国家安全保障上の重要性とサプライチェーン上の脆弱性から、政府はグラファイトを重要鉱物に指定している。Benchmarkの予測によると、リチウムイオンバッテリーの負極材に必要なグラファイトの量は、2028年までに175万トンと、2017年比で9倍に急増するという。
グラファイトの探査と生産を手掛けるCeylon GraphiteのCEOを務めるBharat Parashar氏は、「グラファイトは純度が全てだ」と述べている。世界最高グレードのグラファイトはスリランカにある。Ceylon Graphiteはスリランカで採掘を行っており、環境に優しく持続可能なオペレーションに投資してきた。
Parashar氏は、「再生可能エネルギーの成功にはストレージが不可欠だ」と説明している。現在の技術では、全てのエネルギーストレージ製品は負極材料にグラファイトが必要とされている。そのため、EV向けバッテリー/エネルギーストレージセルを求めている自動車メーカーは、原材料競争に直面することになる。
Black氏は、「米国は海外資源への依存について最初に議論した際に、国内生産を目指して、より幅広いアプローチをとった」と説明している。現在は、アライアンスの構築を検討しているという。
「一見すると、国内生産を目指すのはあまりよくないやり方に思えるが、鉱山の開発には長い時間がかかり、許可を得るだけで5年を要する地域もある。だが、米国に友好的な企業と提携することでより多様な選択肢が生まれ、10年以内に競争力のある強力で多様なサプライチェーンを構築することができるだろう。価格競争がないため、顧客に不利益をもたらすこともない」(Black氏)
Parashar氏は、「グローバルな提携だけでは不十分な場合、バッテリーのメガファクトリーを所有する企業やバッテリーの原材料を大量に使用する企業は、垂直統合(鉱山事業の買収)を検討すべきだ」とも述べている。「例えば、Teslaはバッテリー/エネルギーストレージ事業を手掛けており、バッテリー/エネルギーストレージセルの自社生産に向けてメガファクトリーの建設を予定している。同社の計画を全て実現するには、原材料の調達先の買収を検討すべきであることは間違いない」(Parashar氏)
Teslaの創業者であるElon Musk氏は、同社が、より安価なEVのみならず、持続可能なエネルギーとストレージにおいても重要な役割を果たすというビジョンを描いている。Musk氏は、バッテリーの正極に使用するコバルトの量を段階的に減らし、主にインドネシアやロシア、カナダ、フィリピンで採掘されるリン酸鉄やニッケルなどに変えていく計画だという。
Parashar氏は、「Musk氏は、SpaceXなどの大規模プロジェクトでも知られるが、典型的なサプライチェーンの慣習を廃止しようとする姿勢こそが、これらの変革的な戦略を成功させているのかもしれない」と述べている。
例えば、2030年までに1億5000万台以上のEVを導入するという世界的な計画を実現するためには、約1000万トンの精製グラファイト(原料としては最低でも1250万トン)が必要であり、その他の主要な鉱物もほぼ同量が不足する。
エレクトロニクス業界では、垂直統合への動きも再び見られ始めている。パワーコンポーネントを手掛けるVicorは、米国マサチューセッツ州アンドーバーにある工場を拡張し、設計だけでなくプロセスも管理できるようにした。これにより、Vicorはパワー製品をより迅速に、低コストかつ高品質で製造できるようになるとしている。
Parashar氏は、「Musk氏や(Amazonの)Jeff Bezos氏のような人物であれば、製品のために希少な原材料が必要ならば、その供給源を確保するために動くだろう。個人的にも、そうする必要があると考えている。成功したいのであれば、どのような要素であっても垂直統合すべきではないか」とも語った。
BenchmarkのマネージングディレクターであるSimon Moores氏は2020年、米議会に対し、「これら重要な原材料をコントロールする者、そして製造/処理のノウハウを持つ者が、21世紀の自動車およびエネルギー分野においてパワーを持つことになる」と訴えた。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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