「2021年はわれわれの強みを発揮することができ、あらゆる面で記録的な結果を残すことのできた1年だった」と語るのは、アナログ・デバイセズ日本法人代表取締役社長の中村勝史氏だ。幅広い製品ポートフォリオや早期から積極投資を行ってきた生産/供給体制などの特長を生かし記録的な業績を残したアナログ・デバイセズ。「2022年は顧客が抱える問題を解決するソリューション提供で結果を出す」と語る中村氏に2022年の事業戦略などについて聞いた。
――2021年はどのような1年でしたか。
中村勝史氏 2021年は、アナログ・デバイセズの広いビジネス、ポートフォリオといった強みを十分に発揮することのできた1年だった。
2021年10月期通期業績は、前年比31%増になる売上高73.2億米ドルと過去最高を大きく上回るなど、記録的な業績になった。2021年8月末に買収が完了したMaxim Integratedの売り上げが最後の9.5週分加わったことで伸びたこともあるが、Maxim買収寄与分を除いても記録的な業績と言え、用途市場別や製品別などのあらゆる項目でも目覚ましい結果を残すことができた。
日本市場に限っても、非常に高い伸び率で売り上げが増加し、記録的な1年だった。
――用途市場別に2021年のビジネスを振り返ってください。
中村氏 全社的にも、日本法人としても、売り上げ比率が50%を超えて、最もビジネス規模の大きい産業分野は、多くのアプリケーションで構成される裾野の広い市場であり、アナログ・デバイセズの豊富なポートフォリオが特に生きる市場分野だ。その産業分野は、2020年以降、中国を皮切りに世界的に設備投資需要が高まった。そうした中で、広いポートフォリオに加え、供給面などでもアナログ・デバイセズの強みが発揮され、ビジネス規模を大きく広げることができた。
医療分野に関しては、ここ数年間にわたって二桁成長を続けてきた分野だが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴って、さらにその成長が加速した。半導体市場全体で、供給不足が深刻化する中、アナログ・デバイセズとしては人命に直結する医療機器分野を最優先して、供給を途絶えさせないように対応を行ってきた。これにより一定の社会貢献ができたと自負するとともに、ビジネス的な結果にもつながった。
通信分野に関しても、COVID-19によるテレワークの普及、拡大により需要が大きく高まった。同時に、5G(第5世代移動通信)のサービス立ち上げ時期とも重なり、大変旺盛な需要が続いた。コロナ禍においては、通信インフラの整備も大きな社会的ニーズがある領域のため、医療機器に次いで優先な供給対応を実施した点も良かったと考えている。
――自動車分野、民生機器分野についてはいかがでしたか。
中村氏 自動車分野は、COVID-19によって2020年は大きく生産台数が落ちたが、2021年はそこからずいぶんと回復基調に転じた。とはいえ、ご存じの通り、自動車分野はサプライチェーンの混乱の影響を少なからず受け、他の分野に比べると厳しかった。2021年年末近くからは徐々に、自動車の生産は正常化の兆しが見えつつあり、2022年は期待できる状況にある。
民生機器分野については、アナログ・デバイセズとして事業戦略の見直しを図っている最中で、2020〜2021年はそうした方針転換の影響で売上高が一時的な底を打つ時期とみていたが、ステイホーム需要で、注力を強めているプレミアムな民生機器需要が大きく伸び、記録的な急成長を遂げることができた。
――2021年は供給に苦慮する半導体メーカーが多くありました。
中村氏 アナログ・デバイセズとして100%うまくいったわけではなく、非常に厳しい部分もあったが、顧客と常に調整をしながら、大きなトラブルは避けることができた。供給面においても、アナログ・デバイセズの強さを発揮できたことで、記録的な業績に結び付いたと考えている。
――供給面で比較的、うまく乗り切れた理由についてお聞かせください。
中村氏 早い段階で手が打てたことが挙げられる。COVID-19の感染拡大が始まった当初、具体的には2020年3〜5月の段階で、医療機器関連の需要拡大に備え増産に向けた設備投資を決定した。2020年夏には後工程での第1弾の増産体制が立ち上がり、前工程においても、2021年夏から新たな製造ラインの稼働が始まった。現状、第2弾の投資を実施しており、2022年春頃から順次立ち上がる見込みだ。
自社製造拠点への増産投資に加え、製造を委託する外部パートナーとのパートナーシップも機能した。最も多くの量を委託しているTSMCとは、30年ほど前からパートナーシップを構築し、アナログ・デバイセズはさまざまな面で重要パートナーだと認めてもらっている。こうしたパートナーシップは、TSMCに限らず多くのファウンドリー、OSAT(後工程受託企業)とも構築できており、しっかり機能した。
加えて、事業継続性の観点から近年進めてきた(1つの製品を複数工場で生産する)マルチソース化も大きな効果を発揮した。COVID-19の感染拡大による人流抑制策に伴い東南アジアを中心に工場稼働を停止せざるを得ない状況が発生する中でも、フレキシブルに生産、供給が行えた。
まだまだ2022年もサプライチェーンの混乱は続き、供給責任を果たしていくことは大きな課題だと認識している。今後もさまざまな対策を講じていく。
――2021年8月にMaximの買収を完了されました。買収の狙いとともに、今後期待されている買収による相乗効果について教えてください。
中村氏 ご存じの通りMaximは、アナログ・デバイセズ同様、アナログ専業の半導体メーカーだ。アナログ・デバイセズとしては、2017年にリニアテクノロジーを買収しており「またアナログ半導体メーカーを買収して、どうするのか?」という質問をよく受ける。しかし、同じアナログ半導体専業メーカーだが、製品やビジネスの重複が少なく、補完関係にあるので買収した。
Maximは、アプリケーションに特化した高付加価値製品に強く、アナログ・デバイセズが手掛けていないところに強みを持っている。例えば、自動車用途で普及している高速データ伝送ICの「GMSL」(ギガビット・マルチメディア・シリアルリンク)や、生体情報モニタリング技術、IOリンクなど産業用インターフェース関連技術などだ。産業用インターフェースについては、アナログ・デバイセズとしても一部製品を展開しているものの異なる規格であり、Maxim買収で提供できるポートフォリオが広がった。
電源製品分野のポートフォリオも大きく拡大した。これまでアナログ・デバイセズとしては、リニアテクノロジー買収で非常に高い性能を有する製品群に強みを持っていたが、今回のMaxim買収により、より幅広いアプリケーションで使用できる電源製品ポートフォリオが拡充された。電源ICには、非常に多くのニーズが存在する中で、広範な電源製品ポートフォリオが整ったことで、電源分野での競争力が大きく高まった。
また優秀なアナログエンジニアの確保という点も買収の大きな狙いだ。アナログ技術者は増えこそしているものの、デジタルやソフトの技術者に比べて不足している。そうした中で、Maximの優秀なエンジニアが加わったことは、中長期的にみて心強い価値のあるものになった。
さらに、製品やビジネスの重複がほとんどないことで、両社がそれぞれ得意にする顧客/市場に対し相互の製品を提案、販売するクロスセルというシナジーもかなり期待できる状況だ。現在、組織的な統合作業を進めている最中ではあるが、既に一部クロスセルによる成果も現れつつある。今後、2〜3年はクロスセルによる売上増が期待できると考えている。
――新年、2022年の見通しを教えてください。
中村氏 現状、積み上がっている受注残から判断すると、2022年中に供給問題が解決するとは考えにくい。半導体不足は、2023年まで続くことになるだろう。
注力する「産業」「ヘルスケア」「通信」「自動車」「民生機器」という5つのアプリケーションはいずれも、中長期的に成長を引っ張る市場トレンドが存在し、半導体需要は伸びていく見通しでもある。
そうした中で、多くの受注残に対し、しっかりと供給責任を果たしていくことが2022年の大きな事業テーマだと考えている。
同時に、市場トレンドに沿って著しい進化を遂げ、複雑化するアプリケーションに対し、単に製品を提供するだけでなく、アプリケーションレベルでの深い知見をもって、各アプリケーションが抱える課題を解決するソリューションを提供することがより重要だと考えている。2022年は、製品をベースにしたソリューションで、顧客が抱える問題を解決することによって結果を出す年にしたい。
――提供されるソリューションとはどのようなものでしょうか。
中村氏 例えば産業であれば、工場の自動化、遠隔制御といったトレンドがある。そこに、ToF(Time of Flight)技術や画像認識技術をベースにソリューションを構築し提供している。産業分野は非常に幅広くさまざまなニーズがある。われわれはこれまで、産業機器のコンポーネントに対し製品を収め、そのコンポーネントはさまざまな産業システムに使用される。今後は、われわれの製品が搭載されるコンポーネントが使われる先までを考えたソリューションを提供することが目標であり、遠隔制御ソリューションは、そうしたコンポーネントの先を見据えたソリューションの1つであり、そういったソリューションを多くそろえていく。
――通信分野に向けては。
中村氏 通信では、普及が始まっている5Gの領域でよいポジションが築けている。例えば、NEC、楽天モバイルと共同で、5GオープンvRAN(仮想化RAN)の実現に向けた開発を行っている。このオープンvRANは、ネットワーク構築が非常に簡便にできる技術であり、プライベート5Gやローカル5Gなど、さまざまな5Gのユースケースが検討される中で、極めて有望な技術になっている。
アナログ・デバイセズでは、このオープンvRANなどで不可欠な大規模MIMO(Massive MIMO)に向けたRFトランシーバーで、かなり高いシェアを有している。アンテナ1本当たりの消費電力を低減しつつ、省電力化で発生する信号の歪みという課題を解決するハード/ソフトウェアソリューションがある。これまではFPGAなどを用いて非常に大きな開発負荷がかかっていた部分を、ICベースのソリューションで短時間に構築できるものであり、今後の5Gの普及とともにさらに需要が伸びるとみている。
――自動車に向けたソリューションを教えてください。
中村氏 自動車市場での大きなトレンドの1つである電動化に対しても、さまざまなソリューションを展開している。
電気自動車のキーパーツであるバッテリーマネジメントシステム(BMS)用ICでは、電気自動車メーカー10社中7社に対して製品を納入しており、今後もワイヤレスBMSなど優れたソリューションを提供して、その地位を高めていく。
また電動化でより重要性が増す、自動車の軽量化、ワイヤーハーネス削減に向けたソリューション提供も強化していく。10年ほど前から、オーディオ関連のワイヤー接続を簡素化する独自のオーディオインターフェース技術「A2B」を提案してきたが、ここ2〜3年で本格的に市販車に搭載されるようになり市場に定着した。
そして現在、ADAS(先進運転支援システム)などの普及で、カメラ搭載点数が増えつつある中で、カメラとECU間の接続を安価に簡素化できる技術として、「A2B」のカメラ版といえる「C2B」を構築し、提案を進めている。さらに、Maxim買収で高速データ伝送ICの「GMSL」も加わったことで、自動車のワイヤーハーネス削減に向けた総合的なソリューションを提供できるようになった。
他にも、電動化でより問題が顕著になってきている、車室内でのノイズを低減に向けて、DSP製品などをベースにしたノイズキャンセリングソリューションの提案にも注力していく。
――民生機器分野でのビジネス戦略をお聞かせください。
中村氏 プロシューマー領域を含む高付加価値な民生機器分野に集中する戦略を維持しながら、顧客の幅を広げていく予定だ。製品としては、2021年にリリースした8K対応機器向けのHDMI2.1関連製品などの拡販に注力していく。またハイエンド民生機器に向けた電源ソリューションの展開も強化していく。
――2022年の抱負をお聞かせください。
中村氏 先述の通り、多くの引き合いを得ており、供給責任を果たして、顧客の期待に応えていくことが2022年の最大の課題であり、目標だ。
その上で、アナログ・デバイセズの強みである豊富な製品ポートフォリオ、テクノロジーをベースに、さまざまな課題を解決するソリューションを提供していく。日本には、自動車、産業機器、医療、通信、民生の各市場で最先端の技術を取り入れ、世界的な技術トレンドをリードする企業が多く存在している。そうした企業とともにさまざまな技術課題を克服し、新しいトレンドを海外へと発信してきたい。
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提供:アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2022年2月10日