Armのライセンスには、「TLA(Technology License Agreement)」と「ALA(Architecture License Agreements)」の2種類がある。TLAは、市販のArmコアに向けたもので、ALAは企業に対してArm技術のカスタム実装の開発を許可するためのものである。Armは、「Nuviaは買収される前の時点で、TLAとALAの両方のライセンスを保有していた」と述べる。
ALAは、比較的まれな存在である。Armコアをカスタマイズするためのプロセスは、かなりの時間を要する上に非常に難しい。さらに、その成功率は変化する可能性があるため、挑戦しようとする企業は少ない。Armも申し立ての中でそのように述べている。また、このようなタイプのライセンスは、非常に高額なことで知られている。ALAは通常、新興企業には手が届かない存在であるため、そうした点ではNuviaは例外だった。
さらに事態を複雑にしているのが、QualcommがNuviaの買収以前から、既に自社専用のALAを保有していたという点だ。Armは、「Qualcommはもともと、ALAを保有していたにもかかわらず、2018年に『Centriq』シリーズを廃止したために、TLAライセンスのArmコアを頼みの綱にしている。Qualcommが2021年初頭の時点で、近い将来に向けた自社の開発パイプラインの中に、カスタムプロセッサを1つも保有していなかったということが明らかになるだろう」と述べている。
Armは申し立ての中で、「ArmのALAは通常、特定のArm技術をベースとしたプロセッサコアの開発を許可するためのライセンスである」と主張している。つまり、アーキテクチャライセンスは一般的に、全てのArm技術を対象としているわけではないということだ。しかしArmは、Qualcommの既存のALAの正確な内容については明らかにしていない。
Armは、「当社がNuviaに提示したライセンス料とロイヤリティー料率には、NuviaによるArmアーキテクチャの使用範囲と、その性質に関する期待とが反映されている。また、当社はNuviaに対して、データセンター向け製品でのArmエコシステムの採用を推奨すべく、優先的なサポートを提供した。データセンターはArmにとって、長年にわたり成功実現を目指してきた分野である」と述べている。Armが、新興企業向けに値引きしたライセンスを、Qualcommのような大手顧客企業に、よりふさわしい内容のものに変更するという好機を見いだしていたのは間違いないだろう。
Armは申し立ての中で、「Nuviaのライセンスは、予定されていた譲受側が独自にArmライセンスを保有しているか否かに関係なく、譲渡可能なものではない。ArmとNuviaのライセンス契約は2022年3月に終了しているが、Qualcommはそれを知っていただけでなく、適切な措置であるとして合意していた」と主張する。
また、「Nuviaとのライセンス契約は終了しているため、Qualcommが、NuviaのALAの下で開発したカスタムコアをベースとする製品の開発/販売を行うことはできない」という。
ここで興味深いのが、Armが、Qualcommは、NuviaのALA終了について同意したにもかかわらず、引き続きNuviaが開発したカスタムコアを開発/使用していく考えだったと主張しているという点だ。
Armの申し立てによると、Qualcommは、NuviaのALA終了後の数週間、「Qualcommの新型プロセッサコアがArmアーキテクチャに準拠し、製品への搭載を実証できるよう、Armに検証を求めた。Qualcommはこの時、このプロセッサコア設計が、Nuviaの終了したライセンス契約をベースとした設計なのかどうかについて、説明しなかった」とされている。
Armは明らかに、Nuviaの終了したALAの下で開発されたコアをQualcommがまだ使用していると疑っている。上記の申し立てからは、QualcommがNuviaの技術のライセンスが切れていることを理解しながらも、開発を進めているとも読み取れる。
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