TI、EV向け絶縁型ゲートドライバーICを発表：航続距離を最大で年間1600kmも延長

テキサス・インスツルメンツ （TI）は、電気自動車（EV）のトラクションインバーターに向けた絶縁型ゲートドライバーIC「UCC5880-Q1」を発表した。EVの航続距離を年間で最大1600kmも延長することが可能になるという。

[馬本隆綱，EE Times Japan]

EVに対する充電の時間や電気代を大幅に削減

　テキサス・インスツルメンツ （TI）は2023年5月16日、電気自動車（EV）のトラクションインバーターに向けた絶縁型ゲートドライバーIC「UCC5880-Q1」を発表した。EVの航続距離を年間で最大1600kmも延長することが可能になるという。

　TIは、EVの本格普及に向けて、「航続距離の最大化」や「充電時間の短縮」「さらなるコストの削減」「安全性や信頼性の向上」につながる半導体デバイスの開発、供給に力を入れてきた。

UCC5880-Q1の外観 出所：TI

　新製品のUCC5880-Q1もその一つ。高電圧バッテリーからの直流を交流に変換してモーターを駆動するためのトラクションインバーターは、その性能が充電1回当たりの航続距離やシステム効率に大きく影響を及ぼすことが分かっている。既に、多くのトラクションインバーターが90％以上という高い効率で動作している。こうした中で、UCC5880-Q1を採用すると、システム効率をさらに最大2％向上させることが可能になるという。

　UCC5880-Q1は、20A〜5A単位でゲートドライブ能力をリアルタイムに変えることができる。これによって、システム設計者はSiC（炭化ケイ素）MOSFETのスイッチング電力損失を最小限に抑えられる。この結果、充電1回当たりのEV航続距離は、最大で11.2kmも延びるという。1週間に3回充電するケースでは、年間で最大1600kmも航続距離を延長できる計算となる。

　HEV／EV事業部でゼネラルマネジャーを務めるMark Ng氏は、「1年間でEVに対する充電時間や電気代を大幅に削減できる。絶縁型バイアス電源モジュールのUCC14141-Q1をはじめ、TIが提供する他のICなどと組み合わせれば、部品点数の削減や電力密度を向上させることが可能」と話す。ゲートドライバーICとバイアス電源モジュールの構成で、従来同等製品に比べ、基板占有面積は30％削減できるとみている。

　UCC5880-Q1は、SPI（シリアルペリフェラルインタフェース）を搭載し、SiCの高度な監視機能や保護機能、機能安全のための診断機能などを実現できる。ISO26262にも準拠した。パッケージは、外形寸法が10.5×7.5mmの32端子SSOPで供給する。量産開始前の製品はTI.comより既に入手することが可能。参考価格（1000個購入時の単価）は、最低5.90米ドル。

　カスタマイズ可能なテスト済みレファレンスデザインも用意した。800V／300kWのSiC EVトラクションインバーターシステムに対応するレファレンスデザインには、UCC5880-Q1やバイアス供給パワーモジュール、複数のリアルタイム制御マイコン、高精度センシング機能などが搭載されている。価格は249米ドル。日本円での購入も可能である。