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柔らかい強誘電分子結晶の特性を用途に応じて調整固溶体の合成方法を新たに開発

北海道大学は、柔らかい強誘電分子結晶の固溶体合成方法を開発し、用途に合わせて材料の特性を調整することに成功した。機能性物質である「柔粘性/強誘電性結晶」の実用化に弾みをつける。

» 2024年08月16日 13時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

柔粘性/強誘電性結晶の実用化に弾み

 北海道大学大学院理学研究院の原田潤准教授らによる研究グループは2024年8月、柔らかい強誘電分子結晶の固溶体合成方法を開発し、用途に合わせて材料の特性を調整することに成功したと発表した。これにより、機能性物質である「柔粘性/強誘電性結晶」の実用化に弾みをつける。

 柔粘性/強誘電性結晶は、2016年7月に研究グループが発表した機能材料で、高温で柔らかい結晶相となり、室温で強誘電性を示す。押すとワックスのように延びて広がる強誘電体で、粉末を押し固めると透明な強誘電性フィルムやディスクを比較的容易に作ることができるという。

 研究グループはこれまで、いくつもの柔粘性/強誘電性結晶を開発してきた。ただ、高い性能を示すのは特定の条件下であった。このため実用化に向けては、用途に応じて最適な特性を持つ材料の開発方法を確立するのが急務となっていた。

 今回の実験では、柔粘性/強誘電性結晶である「過レニウム酸1-アザビシクロ[2.2.1]ヘプタニウム([AH][ReO4])」を用いて、「過レニウム酸キヌクリジニウム([QH][ReO4])および、「過ヨウ素酸1-アザビシクロ[2.2.1]ヘプタニウム([AH][IO4])」との固溶体を合成した。

柔粘性/強誘電性結晶の[AH][ReO4]と[QH][ReO4]および、[AH][IO4]とそれらの固溶体 柔粘性/強誘電性結晶の[AH][ReO4]と[QH][ReO4]および、[AH][IO4]とそれらの固溶体[クリックで拡大] 出所:北海道大学

 これらは、水やエタノールに良く溶ける。しかし、[AH][ReO4]と[QH][ReO4]の割合が1対1の水溶液を蒸発させても、それぞれの結晶が混在する固体の混合物となる。

 そこで今回は、結晶成長時に化合物が精製されないよう、溶液からできるだけ急速に結晶を析出させることにした。具体的には、2種類の柔粘性/強誘電性結晶を溶かしたエタノール溶液に大量のヘキサンを加え、結晶を短時間で微細な粒子として沈殿させた。これにより、原料溶液とほぼ同じで均一な組成を持つ固溶体が、約90%の収率で得られたという。

 この方法は、[AH][ReO4]と[QH][ReO4]および、[AH][ReO4]と[AH][IO4]の固溶体いずれにも適用でき、任意の割合で混じり合った固溶体(全率固溶体)を合成できたという。

柔粘性/強誘電性結晶の固溶体合成 柔粘性/強誘電性結晶の固溶体合成[クリックで拡大] 出所:北海道大学

 作製した固溶体は、100Kにわたる幅広い温度範囲で自由に変更できることを確認した。そして、強誘電体の焦電性を最適化することで、室温における性能を大幅に向上させた。例えば、[AH][ReO4]の多結晶フィルムは、室温の焦電係数pが190μCm-2K-1となる。これに対し、[AH][ReO4]と[AH][IO4]の割合が8対2の固溶体「[AH][Re0.8I0.2O4]」は、pが290μCm-2K-1と大きく向上。電圧応答焦電性能指数(Fv)も0.80m2C-1となり、チタン酸ジルコン酸鉛のセラミックス(0.059m2C-1)に比べ10倍以上となった。

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