北海道大学と東北大学、名古屋工業大学の研究グループは、鉄を主成分とする「リチウムイオン電池正極材料」を開発、高容量で高サイクル寿命を両立させることに成功した。
北海道大学大学院理学研究院の小林弘明准教授、東北大学多元物質科学研究所の本間格教授、名古屋工業大学大学院工学研究科の中山将伸教授らによる研究グループは2024年4月、鉄を主成分とするリチウムイオン電池正極材料を開発、高容量で高サイクル寿命を両立させることに成功したと発表した。
リチウムイオン電池の正極材料にはこれまで、コバルトやニッケルといったレアメタルが用いられてきた。これらの材料は今後、資源の枯渇や価格のさらなる高騰が懸念されている。近年は、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)を用いたリチウムイオン電池なども製品化されているが、車載用途などでは新しいレアメタルフリー正極材料の開発要求も高まっているという。
研究グループはこれまで、鉄を主成分とするリチウム鉄酸化物(Li5FeO4)の材料開発に取り組んできた。この材料は逆蛍石構造であり、鉄と酸素のレドックス反応の両方を利用できることから、LiFePO4に比べて2倍以上の可逆容量が得られるという。ただ、充電時に進行する酸素脱離反応で、サイクル特性が悪くなるという課題があった。
研究グループは、Li5FeO4における酸素脱離反応を抑制するため、新たな元素を導入することにした。pブロック元素と呼ばれる13〜18族の中でも、特に13〜16族の元素は酸素と強く共有結合し、Li5FeO4のLiやFeと容易に置換することが可能である。そこで今回、Li5FeO4についてFeの一部をアルミニウム(Al)やシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、リン(P)および、硫黄(S)に置換した材料を合成することに成功した。
合成した材料のサイクル特性を評価した。繰り返し10回目における酸素レドックス反応の容量維持率は、Li5FeO4の50%に対し、Siを導入した材料では90%まで向上することが分かった。鉄のレドックス反応も合わせた正極全体のエネルギー密度では、PやGeを導入した材料が高い性能を示した。
研究グループは、酸素レドックス反応について、放射光を用いた分光分析と計算科学の双方から調べた。これにより、置換されたpブロック元素が酸素と共有結合して酸素脱離を抑制、サイクル性が向上することを確認した。実験結果から、SiやPの導入がレアメタルフリー正極材料の高性能化に有効であることが分かった。
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