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AIシステムの「メモリの障壁」を取り除く MRAMで挑む米新興省電力で実装面積も縮小(2/2 ページ)

» 2025年04月10日 15時30分 公開
[Filippo Di GiovanniEE Times/embedded.com]
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「NuRAM」がもたらす進化とは

 米EE Timesの姉妹媒体であるEmbedded.comは、Numemのマーケティング担当シニアディレクターであるKoji Motomori氏にインタビューを行った。

――NumemのAIシステム向けメモリソリューションは大きく前進しているが、その主な要因は?

Koji Motomori氏 Numemのメモリソリューションは、AIシステムにおける電力効率やスケーラビリティなどの主要な課題に対応する。当社の特許技術であるNuRAM/SmartMemは、以下のように、既存のSRAM/DRAMに対して大きな進化をもたらすことができる。

  • 超低エネルギー消費量:SRAMと比べて待機電力を最大100分の1に低減
  • フットプリントを縮小:SRAMと比べてフットプリントを40%に縮小することにより、制約のあるチップスペースでも大容量メモリを導入可能に
  • 高帯域幅:広帯域幅メモリ(HBM)と比べて4〜6倍の高速化を実現、要求の厳しいAIワークロードに対応できるよう設計されている
  • 高容量:メモリチップスタッキング(memory-chip-stacking)パッケージ技術を活用することで、AIワークロード向けに必要な、スタック当たりギガバイトクラスの容量を実現
  • 不揮発性:電力がなくてもデータを保持できるため、エネルギー使用に配慮した AIアプリケーション向けとして最適

 こうした機能によってプロセッサ性能が全体的に向上し、Numemのソリューションは、エッジデバイスとデータセンターAIシステムの両方における優れた選択肢の1つとなった。

――Numemの革新的技術は、どのような分野にメリットを提供するのか。自動車は関心のある分野なのか

Motomori氏 Numemのイノベーションの主要な受益者としては、データセンターやサーバ、エッジデバイスなどのAIアプリケーションが挙げられる。自動車や航空宇宙、セキュリティカメラ、PC、ウェアラブルAIデバイスなどの主要業界は、電力効率と性能向上をフル活用することで、複雑なAIワークロードを効果的に管理できる。

 車載アプリケーションは、Numemにとって重要な焦点の1つとなっている。自動運転やカメラセンシングなどのユースケースでは、リアルタイムの意思決定を行うための低レイテンシやHBMが求められる。Numemのスケーラブルな低消費電力メモリソリューションは、車載AIシステムにおけるこのようなニーズの高まりに応える上で適している。

――NuRAMの生産では、MRAMの場合と比べると何か特定の課題があるのだろうか。NuRAM製造向けの設備が整っているファウンドリーは?

Motomori氏 ありがたいことに、成熟したMRAM生産能力を備える大手ファウンドリーの多くは、成膜やリソグラフィ、エッチング技術などの専門技術を有していることから、NuRAM生産に対応できるだけの十分な設備が整っている。

 われわれが直面している課題は、以下のように、どの半導体設計メーカーにとってもごく普通に存在するものだ。

  • 新しいプロセスへの適応:MRAMプロセスは強固な基盤を提供するが、NuRAM and SmartMemを微調整するには、さらなる研究開発の取り組みが必要となる
  • 材料の最適化:高い歩留まりと安定した性能を大規模に確保することは、まだ継続中の課題となっている

 われわれは現在、主要なファウンドリーパートナーであるTSMCと密接に連携し、NuRAMの製造において同社の高度な生産能力を活用している。さらに、市場/顧客需要に対応できるようスケーラビリティと準備体制を確保すべく、他の大手ファウンドリー数社とも協業している。

――この新技術の導入によって直ちに影響が及ぶ可能性がある、実世界のAIアプリケーション例を挙げてほしい

Motomori氏 Numemのメモリ技術は、以下のような幅広い用途向けにメリットを提供する。

  • データセンター:超低消費電力により、AIモデルのトレーニングと推論ワークロードの効率性を高められる。SRAM/DRAMの使用量を低減することで、TCO(Total Cost of Ownership)に大きなメリットがもたらされる。不揮発性機能によってインスタント・オン機能を実現し、サーバの再起動時間を短縮できる
  • 自動車:低消費電力ソリューションによって電気自動車の電池寿命を延ばし、リアルタイムの意思決定を支援する。NORフラッシュやLPDDRなどの複数種類のメモリを統合メモリにまとめることで、信頼性を高めながら、スペースや電力、コスト、重量を削減できる
  • エッジAIデバイス:IoTアプリケーションの消費電力量を削減することで、エネルギー効率を高められる
  • 宇宙航空:ミッションクリティカルなアプリケーション向けに、高信頼性かつ高エネルギー効率のAIシステムを提供することで、放射線耐性のような独自の課題への対応が可能に
  • セキュリティカメラ:低消費電力と、高解像度のデータ伝送のための高帯域幅により、電池寿命を延長可能に。NORフラッシュやLPDDRを置き換えるような統合メモリソリューションは、スペースや電力、コストのさらなる最適化を実現する
  • ウェアラブルデバイス:消費電力量の削減によって電池寿命が延び、消費者のニーズに合わせた軽量かつコンパクトな設計が可能に
  • PC/スマートフォン:不揮発性によってAI駆動型機能の性能を向上させることで、インスタント・オン機能や、電池寿命の延長、ブートNORフラッシュやDDRなどの既存のメモリタイプを置き換えられる。その結果、電力/スペースの削減や、システム起動時間の短縮、性能向上が可能に

――Numemの次なるステップは

Motomori Numemは、以下のような注力分野においてメモリ技術を進化させていく予定だ。

 まずはファウンドリー各社との協業を強化することで、NuRAMの製造を拡大し、高まる市場需要に対応していく。エコシステムパートナーシップの構築にも力を入れる。

 さらに、第1世代となる22nm世代を適用したテストチップと、Numemの先端のテストチップを新製品としてリリースする。これらは、2025年第4四半期に立ち上げ予定の12nm NuRAMソリューションのベースになるものだ。

Numemの12nm適用NuRAM 出所:Numem

 新規市場の開拓も強化する。新興市場やアプリケーションにおけるビジネス機会を特定することで、当社のメモリ技術の採用をグローバルに拡張していきたい。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

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