1MWの電力の調達、伝送、送電は「ほぼ完璧」といった状態は許されない複雑な作業だ(図3)。全ての電力が1本のケーブルを流れる場合、難易度はさらに高まる。ケーブルは、エンドユーザーが車に接続し、その後取り外す必要があり、現実の使用環境では、露出したコネクターが過酷な天候下で放置され、酷使されることになるのだ。
さらに、1MWという数値自体にも言及しておきたい。この巨大な電力値を見て、多くの疑問や問題が頭に浮かんだ。参考までに言うと、米国の平均的な住宅のピーク時の定格電力は、240VAC×100A=24kWだが、200Aのサービスを備えた新しい住宅の場合、ピーク電力は48kWに達する。つまり、1MWの充電レートは20〜40戸分の住宅に匹敵することになる。
これほどの電力を供給するには、堅牢な発電所と送電網が必要だ。単一の「ゾーン」内で、一体どれほどの1MW充電ステーションが同時に稼働できるだろうか。もし数基が比較的近接して使用されたり、専用マルチステーション充電パークで稼働したりした場合、その電力消費が近隣ユーザーにも電圧低下(ブラウンアウト)を引き起こす可能性はないだろうか? そこで「ご自宅の電圧低下、申し訳ありません。ただ車を充電しているだけで、あと数分で終わりますから」という言い訳が通用するだろうか。
あるいは、充電パークや周辺地域で同時に充電を希望する他の1MWユーザーは、近隣の1MW充電器が1〜2台使用中という理由で順番待ちを強いられるのだろうか。それとも超高速充電速度が制限され、結局20〜30分の充電時間に戻ってしまうのだろうか。
このジレンマはガソリンスタンドとは大きく異なる点に留意してほしい。ガソリンスタンドではエネルギーはガソリン自体に内在していて、給油に必要なのはわずか1馬力(約750W)程度のポンプモーターのみだ。結果として、複数の給油機が同時に稼働しても電力負荷は最小限にとどまる。概念的には大規模ガソリンスタンドに類似するものの、『5分間EV充電ゾーン』で4台、6台、8台、10台以上の「充電ポンプ」が同時に稼働するシナリオが、メガワット級の電力供給速度で実現可能かどうかは疑問だ。
いまこの瞬間にも、大学院生たちが待ち行列理論とサービス率を用いてこの状況をモデル化しているに違いない。彼らが解こうとしている問題はこうだ。1)利用可能な最大充電電力に制限がある条件下で、超高速充電器1台と複数台だが低速な充電器の場合、利用者数が異なる際の待機時間とサービス時間はそれぞれどうなるか? 2)1MW充電を実現する可能性を高める補助的なローカル蓄電システムを追加した場合の影響は? これは需要増加時の増強オプションとなり、需要が低い夜間充電も可能だ(ここでは注意が必要だ。一見すると誰もが需要の低い夜間に充電を計画しているように見えることがあり得る。しかしこれを行う人が増えれば、昼夜間の需要差は縮小し、消滅する可能性もある)
レベル1/レベル2充電、特にDC急速充電器においては、充電を促進/阻害する2つの要因が相互に作用している。第一に、充電器が供給できる電力のレートだ。充電器の種類により150〜350kWの範囲(一部は500kWに達する)となる。次に、車両のバッテリーが充電を受け入れる能力である受電率だ。これは通常50〜500kWの範囲(ただし対応車両は多くない)だ。
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