メディア

中国半導体装置展示会「CSEAC」レポート 中工程シフトと“露光回避”の実態大山聡の業界スコープ(92)(2/2 ページ)

» 2025年09月18日 11時30分 公開
前のページへ 1|2       

露光装置に挑むSMEEとSiCarrier

 この他、非上場のために売上規模などの情報は開示されていないが、SMEEやSiCarrierなどの展示についても紹介しておく。

 SMEE(上海微電子装備)は、露光装置を手掛ける中国では貴重な存在である。ArF液浸露光装置を開発中であるため、米国政府から厳しい監視を受けている、とされる企業である。今回はSMEEとしては出展しておらず、子会社であるAMIESのみが展示を行っていた。このAMIESは露光装置の周辺工程や補助装置の開発、製造を担っている。

 SiCarrier(新凱来技術有限公司)は、Huaweiと密接な関係を持つ装置メーカーと認識されており、露光装置の開発も手掛けていることでも知られている。今回は露光装置を含む展示を行っていたが、量産ライン向けの実績を持たない同社は、手掛ける装置製品のパネル展示のみを行っていた。

AMIES(左)とSiCarrierのブースの様子 提供:産業タイムズ社

視察から得た2つの印象――中工程シフトと露光回避

 今回の視察に関する筆者の印象としては、以下の2点が挙げられる。

 まず、全体的に中工程に関する展示が目立っていた。これは2024年12月に東京で開催されたセミコン・ジャパンにも共通することであり、現在の半導体製造が中工程重視に向かっていることを示している。特にCSEACにおいては、最先端の前工程技術を展示する企業がなく、従来の後工程では注目を集めにくい。最先端の後工程つまり中工程に注力する、という展示が相次いだのは必然的な流れだったと言えよう。

 もう1つは、露光に関する展示がほとんどなかった。SMEEやSiCarrierが露光装置を手掛けていることは周知の事実だが、内容を開示することで米国政府を刺激することは避けたい、公の場であえて開示する必要はない、という意思が働いているように思える。「対中規制」という政治的背景が強く影響した結果といえるだろう。

AI通訳が生んだ“東京レストラン”事件

 以上が筆者のCSEAC視察報告だが、筆者にとって主目的だった講演会の状況についても簡単に触れておこう。

 講演会はテーマごとに場所が分かれた状態で3日間行われ、プログラムには150人以上の講演者と講演タイトルが紹介されていた。筆者が登壇したのは「Forum on Global Semiconductor Industry Chain Innovation and Development」というセッションだった。筆者は初日午前、7人の講演者の5番目として登壇した。講演タイトルは「未来志向:中日企業の協力可能性の検討」を英語にした「Future-oriented: Examining the possibility of cooperation between Chinese and Japanese companies」。英語から中国語への通訳が介在することが伝えられていた。

 講演当日はスライドのチェックや通訳との打ち合わせなどが必要と思い、早めに会場入りしたが、通訳がどこにも存在しない。スタッフに確認したところ、AIによる自動通訳で対応する、とのこと。ネイティブ英語スピーカーとは言えない筆者の英語が果たしてちゃんとAIで通訳されるのだろうか。当然のように心配したが、こちらは通訳を選ぶ立場にない。さて結果はどうだったのか。聴衆席で筆者の講演を聞いていた黒政氏によれば「東京エレクトロンが東京レストランと訳されていた」とのこと。筆者の発音うんぬんをいう前に、ここは半導体装置の展示会である。「東京エレクトロン」くらいAIシステムがちゃんと学習しておけよ、と突っ込みたくなるのは筆者だけではないだろう。講演翌日、スタッフに感想を聞かれたので、この点について苦言を呈したところ、スタッフたちは爆笑していた。

 不完全なAIの活用、それを聞いて爆笑するスタッフたち。日本では考えられないことばかりだが、これが現実である。この業界で40年過ごしている筆者だが、まだまだ経験、勉強すべきことは多そうだ。

連載「大山聡の業界スコープ」バックナンバー

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.