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「Intelのメガファブ建設」の夢から覚めた欧州 それでも最先端工場を求めるべきか「独自路線を行くべき」との声も(1/3 ページ)

Intelの財務状況の悪化で、欧州に予定していた工場建設は中止となった。それでもなお、ドイツではTSMCが支援するESMCやGlobalFoundriesの拠点拡大計画は進行しているが、いずれも最先端ノードを製造するものではない。欧州では、最先端半導体工場を追い求めるべきか、議論が分かれている。

» 2025年10月29日 11時00分 公開
[Pat BransEE Times]

 2022年、Intelがドイツのマクデブルクに300億ユーロ規模のメガファブを、ポーランドのヴロツワフ近郊に42億ユーロ規模の半導体組立/試験工場を建設すると発表したとき、欧州の指導者らは歓喜した。Intelの投資は、半導体における戦略的自立、数千人の雇用、先進半導体製造における世界的な適合性を象徴し、「European Chips Act(欧州半導体法)」の目標達成に向けた前進を後押しするものだった。

 Intelが「最先端のウエハーを生産し、Intelのオングストローム時代の最先端製造技術を活用する」と約束した同プロジェクトの成功を確実なものにするために、ドイツ政府はIntelに対し約99億ユーロの補助金を約束した。一方、ポーランドに対しては約17億ユーロを約束し、欧州委員会は両方の金額を承認した。

Intelがドイツのマクデブルクに建設を予定していたメガファブの完成予想図 Intelがドイツのマクデブルクに建設を予定していたメガファブの完成予想図[クリックで拡大] 出所:Intel

 しかし、その夢は2025年半ばまでに崩れ去った。Intelは財務状況が悪化する中、2024年後半にこの計画を中断していた。2025年7月、CEOのLip-Bu Tan氏は、顧客のコミットメントが不十分であることと、採算が取れない可能性のある製造設備に数百億米ドルを割り当てるのはリスクが高いことを理由に、計画中止を正式に発表した。

欧州半導体業界の「代替案」

 ドイツとポーランドはIntelの撤退に失望したが、話はそれだけでは終わらない。欧州では今なお、活発かつ連携の取れたプロジェクトが進行している。その代表例が、TSMCが支援するドレスデンのESMCと、同じくドレスデンにあるGlobalFoundriesの欧州主要拠点の継続的な事業拡大だ。

ESMCのファブの完成予想図 ESMCのファブの完成予想図[クリックで拡大] 出所:ESMC

 欧州最大の半導体クラスタであるSilicon Saxonyのマネージングディレクターを務めるFrank Bosenberg氏は、最先端分野で活躍するという欧州の野望に関しては挫折を認めたが、いずれにせよIntelの半導体工場が2030年までに完成する見込みはなかったと考えているという。同氏はEE Times Europeのインタビューで「Intelの工場建設計画がなくなっても、欧州が今後10年間で世界シェアの20%を生産するという目標には影響しない」と語った。

 Bosenberg氏は「近い将来、少なくとも欧州大陸では、最先端のロジックパスはなくなるだろう」と述べ、欧州がAIスーパーコンピュータ向けのNVIDIAチップに資金を注ぎ込む一方で、そのようなチップを製造する工場が国内にないのは「明らかな矛盾」だと付け加えた。「アイルランドにはまだIntelがあるが、欧州大陸には最先端ノードを製造する能力が全くない」(Bosenberg氏)

 今後の展開を予測するには、欧州委員会が資金提供を「承認」する際に、Intelや他の企業に対して小切手を切るわけではないのだと理解する必要がある。EU各国が企業に直接資金を提供するのではなく、欧州委員会が加盟国に対して、EU競争法では通常禁止されている補助金交付の権限を与えるのだ。EUの直接拠出金も存在するが、規模ははるかに小さく、研究開発やパイロットライン、スタートアップに重点が置かれている。

 そのため、Intelの撤退によって解放される資金は、EUレベルではなく国家レベルのものだ。しかし、ドイツの別のプロジェクトがIntel撤退の恩恵を受けるには、ドイツ政府が新たな補助金パッケージを設計し、欧州委員会による国家補助の承認を申請する必要がある。その後、委員会は支援が適正であるか、市場の失敗に真に対処できるものなのか、単一市場内の競争を歪曲していないかを審査する。

 一方、ESMCは全速力で計画を進めている。TSMC、Bosch、Infineon Technologies、NXP Semiconductorsの合弁会社であるESMCは、ドレスデンに新たな半導体工場を建設するために100億ユーロ以上を投資している。同施設では、TSMCの28/22nmプレーナ型CMOS技術と16/12nm FinFETプロセス技術を適用したウエハーを生産する。これらは成熟技術だが、欧州の自動車および産業分野にとって非常に重要である。ESMCの広報担当者によると、同プロジェクトによって、TSMCの先進的な製造技術が欧州の自動車および産業分野の顧客にさらに近づくことになるという。

 同広報担当者はEE Times Europeに対して「プロジェクトは予定通り進んでいる」と語った。2025年春に地盤工事を完了、夏に基礎スラブを敷設し、秋に最初の建物階層に着手している。再生可能エネルギーで稼働し、先進的な水管理でサポートされたこの半導体工場は、欧州が推進する持続可能な半導体製造の考えを反映したものだ。約2000人の直接雇用を創出するほか、サプライヤーベースでさらに数千人の雇用を支えると期待される。ESMCは国内の人材育成にも投資し、ドイツ初の半導体技術者向け英語職業訓練プログラムを支援している。

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