今回は、ヒューマノイドロボット分野における日本企業の勝ち筋を探る。ヒューマノイドロボットの開発やサービスの導入において、日本企業が持つ強みや付加価値はどこにあるのか。
第1回、第2回と、「CES 2026」で見たサービス産業向けロボットの現状を紹介してきた。米国ではインフレ、人手不足といった背景がロボット導入を後押ししている。では、日本はどうか。
結論から言えば、日本においてもサービス産業へのロボット導入は不可避だ。
少子高齢化による労働力不足は、もはや待ったなしの状況にある。厚生労働省の推計によれば、2040年には約1100万人の労働力が不足するとされている。サービス産業を維持していくためには、ロボットやAIによる効率化は避けて通れない。
しかし、ここで一つの問題が生じる。日本の「おもてなし」は文化資産だという点だ。
外国人観光客が日本に期待するものの一つが、質の高い接客サービスである。ところが最近、海外の口コミサイト(Redditなど)や周りのカナダ人・米国人の友達から「日本らしさが薄れた」という声が散見される。どの飲食店でもタブレットや自分のスマホで注文できるシステムがあり、多言語対応で便利ではあるが、「日本人の接客を楽しみにしてきた」人からは味気ないというコメントが挙がっているのだ。
コストや効率だけを考えてロボット導入を進めれば、失うものも大きい。
日本では人手不足の課題がありながら、ロボット導入も思うように進んでいない。「完璧でないと導入できない」という慎重姿勢が一因だが、もう一つ、導入後のビジョンが描けていないことも大きい。
しかし思い出してほしい。世界で初めてロボットが働く「変なホテル」を開業したのは、日本企業のH.I.S.だった。2015年、長崎県のハウステンボスにオープンしたこのホテルは、フロントでの受付を恐竜ロボットが行い、ポーターロボットが荷物を運ぶ。「人が足りなくても顧客体験を最大化できないか」という発想からスタートしたプロジェクトだ。
単純にロボットやITシステム、AIを導入して人件費をカットしただけでは、価格競争に陥ってしまう。付加価値を上げながら、日本ならではの価値を提供できるかどうかが分かれ目になる。
ここからは、サービス業のプロではない筆者の意見になるので、あくまで参考程度に聞いてほしい。北米在住の日本人として、日本のサプライヤーやサービス産業が目指すべき方向性について、いくつかの視点を提示したい。
「ホスピタリティ」という言葉はアメリカで生まれたが、日本の接客業に存在する「おもてなし」の精神は、通常の米国サービス業には存在しない。
例えば、困っている様子を察して自分から助けに行く、お客さんの要望が分かりにくくても嫌そうな顔をせず解決してくれる――。こうした、いわゆる「気が利く」行動は、日本の接客マニュアルでは当たり前だが、海外では珍しい。
つまり、日本の接客業にあるような「気が利く」行動ができるAIやロボットがあれば、日本ブランドとして世界に打って出られる可能性がある。
実際、日本のスタートアップではZEALSのOmakase AIが、ECサイトやヒューマノイドロボットへの実装で「おもてなし接客」のAIサービスを米国でも展開している。「察する」「先回りする」といった日本的な接客の特徴を、AIで再現しようという試みだ。
日本のものづくりは、「コンパクトに作る」「場所が狭くても動作する」という点で強みを持っている。この特性は、サービスロボット市場でも生かせるだろう。
例えば、KEENONの配膳ロボット「T10」は、幅59cmの通路を走行できることを売りにしているが、日本の飲食店の通路はさらに狭いことも多い。日本の店舗環境に最適化された小型ロボットは、アジア市場全体で需要があるはずだ。
保守性の良さや長持ちする点も重要だ。特に中小規模の現場では、故障時の対応やメンテナンスコストが導入の障壁になる。「壊れにくい」「壊れても直しやすい」という日本製品の特性は、ロボット市場でも差別化要因になり得る。北米ではせっかく機器を導入しても動かなくなったことを理由に放置されている機械が多い。
Universal Roboticsは、大手の産業用ロボットとは異なり、中小企業をターゲットに、軽量かつ設置が簡単なコンセプトでシェアを伸ばした。同様の戦略が、サービスロボット市場でも有効だろう。
また、富士通がCESで展示していたフィジカルAIも注目に値する。同じ空間で人とロボットの協調動作、複数ロボット間の最適な協調動作を実現する技術だ。ブースでは、人がどこに立っているかでロボットの挙動が分かるというデモをしていた。狭い日本の現場では、人とロボットが衝突せずに協働することが特に重要であり、この領域での技術蓄積は海外展開の武器になる。
日本は業務用調理ロボットの分野で、多品種の料理に対応し、コンパクト・衛生面・人と協働できる安全設計という点で強みを持っている。
米国では、SUSHIはもちろん、HIBACHI(鉄板焼き)も人気だ。また、順番にさまざまな料理が出てくる“Omakase(おまかせ)”スタイルも高級料理の定番となっている。
シェフの調理パフォーマンスを目の前で見ながら料理が提供されるスタイルは、実は世界的に見ると珍しい。この「見せる」調理文化と、ロボット技術を組み合わせることで、新しい体験が生まれる可能性がある。
「職人のデジタルツイン」「フィジカルAI」というコンセプトで、名人の技をロボットで再現する。調理ロボットを表舞台に出し、「ジャパニーズ・ロボット・スタイル」という新しいコンセプトの体験を作り出せるかもしれない(笑)
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