私にとって大学の講義は、「エンジニア/研究員として自分が貫きたい基本方針はこれなのだ」と、あらためて確認する機会にもなりました。それは「手持ちの“不完全な道具”を使って、どこまで前進できるか」ということです。
3年間の休載を経て戻ってきました。休載していた理由は、私はリタイア(定年退職)間際だったにもかかわらず、「MAS(マルチエージェントシミュレーション)」を研究すべく、社会人のまま大学院博士課程に突っ込んでいったからです。なぜ“そんなこと”になったのか――。そして私をそこまでさせた「MAS」とは何なのか。社会人大学院生の実態を赤裸々に語りつつ、MASを技術的に深掘りしていきます。
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私が在籍していた横浜国立大学の都市イノベーション学府の、「交通と都市研究室(Transportation and Urban Engineering Laboratory、略称"TUEL")は、毎週金曜日の午後に、全員(40人くらい)が集合して、6〜7人(日本語発表と英語発表が半分ずつ)で、自分の行っている研究のプレゼンテーション(全体ゼミ)を行っていました。
ざっくり1.5カ月に1回は、その順番が回ってきます。海外留学生は英語発表で、日本人学生は2回に1回の割合で英語発表を行っていました。
日本人学生の英語発表は、よく練習されていましたが、質疑応答では『相当に困っていた』というのが見てとれました ―― それでも、私は正直、『最近の大学生って、すごいな』って思っていましたよ、マジで。
だって、30年前、私が大学院生(修士課程)だった時に、英語なんか1mmも使った記憶がありませんが、それでも卒業できましたよ。英語なんか、学会の全国大会の予稿集か、修士論文のアブストラクトに使ったくらいの記憶しかありません。
スマートフォンが自動翻訳してくれるこの時代にあって、なお、英語からは逃げることはできないのだなという諦めと、それに対応している今の大学(院)生たちの力にも驚きました。
―― 結局のところ、私たち(特に研究員とかエンジニア)は英語から逃げられないのかな?
逃げられないのであれば、せめて「なぜ逃げられないのか」くらいは、自分で納得できる理由をつけておきたい。そうでなければ、スマホが自動翻訳してくれる時代になっても、私たち研究員やエンジニアは、これからも英語を前にして、切ない思いを続けなければなりません。
■研究員やエンジニアは、自動翻訳だけでは質疑応答を乗り切れない
■研究員やエンジニアに必要な英語力は、一般にイメージされる英語力とは違う
これから研究員やエンジニアに求められる英語力は、学校教育でイメージされてきた「正しい英文を作る力」や、「流暢(りゅうちょう)に会話する力」とは、少し違うものになっていくと思います。
皮肉なことですが、AIによって英語が簡単になったのではありません。
英語の「読み書き」の一部が簡単になった代わりに、英語をその場で監督し、修正し、乱暴に使い倒す能力が必要になってきたのです。
―― 研究員やエンジニアに必要なのは、「英語」ではない。
―― デタラメでも構わないから、英語、あるいは英単語を使って、説明を止めない技である。
文法が崩れていてもいい。冠詞が抜けていてもいい。時制が怪しくてもいい。ホワイトボードを指し、数式を示し、単語を並べ、必要なら同じことを3回言い直して、とにかく自分の研究内容を相手に届ける。
私たち研究員やエンジニアは今、「英語を話す時代」から、「英単語とAIを使ってセリフを捻り出す時代」に突入しつつあるのだと思います。
「一生逃げられる」保証のある仕事というものがあるのかどうかは不明ですが、絶対的に強い意思を持ち、「英語など断じて使わない」という覚悟を貫けば、案外、逃げ切れるのかもしれません。
例えば、私の二人の娘は「『日本人に英語が必須』というのは、日本の教育における最大の『陰謀論』だ。これまで英語から逃げ切ってみせたし、これからもスマホと一緒に逃げ続ける」と言い続け、それを自ら実証し、実践し続けています。
私が見ている限り、今のところ、彼女たちは英語という追手を振り切って、順調に逃走を続けているようです。私は、引き続き彼女たちの逃走状況を観測し、その成否を皆さんにご報告していく予定です。
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