「MEMS(Micro-Electro Mechanical Systems)は、『臆病者には向かない』市場だ。しかし、最近になって、製造やテスト、パッケージングにおいて大きな進歩があった。こうした進歩によって、民生機器向けMEMS素子が大きく成長する可能性がある」と米Analog Devices社でマイクロメカニカル製品担当のプロダクト・マネジャーを務めるMack Lund氏は述べる。「(民生機器向けについては)確かに、コストの問題がある。さらに需要が大きく変動するため、量産体制の立ち上げも問題になる。もっと単純なほかの機器市場を狙うという選択肢もある」と米Knowles Acoustics社のバイス・プレジデントであるJeff Niew氏は語る。「しかし、(MEMS素子は民生機器市場でにおいて)十分に報われる」(同氏)。
いく度となく来年は花開く技術として取り上げられてきたMEMS素子にとって、民生機器市場には大きなチャンスが存在するようだ。複数の調査会社の予測によると、MEMS素子を搭載する民生機器の割合は、2007年には現状の6%から22%に増加するという。しかし、MEMS素子の採用には、製造とテスト、コストという問題がつきまとう。
Analog Devices社のLund氏は、「MEMS素子の価格を削減する必要がある。需要に関しては、価格弾力性が強いことが分かっているからだ。価格が下がれば、売上高は大きく伸びる」という。伊仏合弁のSTMicroelectronics社でMEMSマーケティング・マネジャーを務めるHuber Geitner氏は、「MEMS素子を採用することで、電子機器の性能を高められることに対する理解が広まっている」と指摘する。「加速度センサーなどのMEMS素子は、携帯電話機や携帯型パソコン、携帯型ゲーム機に使われるだろう。具体的な適用例を挙げれば、MEMS素子を使えば、ハード・ディスク装置を振動から守ることができ、ノート・パソコンが盗難された場合にシステムと停止させることが可能になる」(同氏)。
MEMS発振器ベンダーである米Discera社が市場規模が35億米ドルの水晶素子市場に参入したのは、「Si(シリコン)に作り込めることだけが理由ではない。MEMS発振器の投入で、電子機器全体のコスト削減を目指している」と同社のチーフ・テクノロジストであるWan Thai Hsu氏は指摘する。「ごく普通のプラスチックQFNパッケージに封止すればコストは下がる。当社ではMEMS発振器のコストを毎年15%で削減することを目指している」(同氏)。独Bosch Sensortec社のCEO(最高経営責任者)であるFrank Melzer氏は、「(MEMS素子の普及は)コストの低減がカギを握っている」と述べる。「確実なことが1つある。それはMEMS素子の価格が下がり、当社の売上高が増えるということだ」(同氏)。
MEMS技術を扱う新興企業が幅広い分野で登場している。こうした新興企業は、タイヤの空気圧センサーや携帯電話機/GPS端末向けRF MEMS素子などで市場参入を検討している。
こうした新興企業の1社に米SiTime社がある。同社は2006年11月に、MEMS共振器の量産を開始した。この共振器は、タイミング・デバイス市場において水晶素子に挑むことを目的に設計したものだ。「あと2年も経てば、MEMS技術について語る必要はなくなるだろう。当社は、タイミング・チップについて語るようになる」と同社の共同創設者でCEOであるKurt Peterson氏は語る。
しかし、水晶素子をMEMS素子で置き換える取り組みに対して、MEMS技術はまだ準備が整っていないと指摘する業界関係者も少なくない。例えば、市場調査会社である米InStat社は、2007年までに携帯電話機といったメインストリームの民生機器でMEMSスイッチの採用が始まると予測しているものの、そのほかの市場調査会社はもっと時間が掛かるとみている。
「最大の疑問は、『MEMSスイッチがいつ携帯電話機に搭載されるか』ということだ」と市場調査会社である独Wicht Technologies Consulting(WTC)社のインダストリ・アナリストのJeremie Bouchard氏は述べる。同氏は、MEMSスイッチが最初に携帯電話機に搭載されるのは、マルチモード対応機の設計変更の機会だろうと指摘する。しかし、その時期については、同氏の見方はほかのアナリストほど楽観的ではない。「早くても2008年だろう」と同氏は予測する。
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