市場調査会社である独Wicht Technologies Consulting(WTC)社は、2008年におけるMEMS発振器の成長率は120%で、水晶発振器との置き換わりが進むだろうと予測している。この成長率は、ほかの市場調査会社が発表した数字の約4倍である。例えば、フランスの市場調査会社であるYole Development社はMEMSファウンダリ企業に関する調査レポートの中で、2008年におけるMEMS発振器の成長率を30%と予測していた。今回のWTC社の予測は、Yole Development社の予測を大幅に上回るものだ。
WTC社によると、現時点におけるMEMS発振器の市場規模は250万米ドルである。しかし今後、民生機器と車載機器で小型の発振器に対する需要が高まるため、2012年には市場規模が1億4000万米ドルにまで成長するとみる。さらに同社は、1枚のCMOSチップ上に複数の発振器を集積するSoC(System on a Chip)技術がMEMS発振器の普及を後押しする大きな力になると予測する。2012年以降には、携帯電話機の基準信号(タイミング信号)用途に向けたMEMS発振器の市場規模が拡大し、10億米ドル規模に達するという。
2007年には約300万個のMEMS発振器が出荷された。製品を出荷したのは、米Discera社と米SiTime社である。さらに米Silicon Clocks社が現在、シリコン・ゲルマニウム(SiGe)技術をベースにしたMEMS発振器の出荷準備を進めている。SoCの基準信号(タイミング信号)向けに提供する予定である。
WTC社でマーケット・リサーチ部門のリーダーを務めるJeremie Bouchaud氏は、「Discera社とSiTime社が出荷した最初のMEMS発振器は、SiP(System in Package)品だったが、 Silicon Clocks社は最初からMEMS発振器を集積したSoCを基準信号源ソリューションとして市場に投入する考えである。 Silicon Clocks社は2008年中に、SoC向け品のサンプル出荷を始める予定で、SiTime社がそれに続くだろう」と述べた。
さらにWTC社は、MEMS発振器市場への参入を大手半導体メーカー3社が表明する時期が近いと予測する。 その中の2社は、オランダNXP Semiconductors社と伊仏合弁STMicroelectronics社である。もう1社については2009年中に参入する見込みという。WTC社は社名を明らかにしなかったが、MEMS技術を使った超小型プロジェクタの開発に取り組んでいる米Motorola社や米Freescale Semiconductor社、米Texas Instruments社が考えられる。 このほか日本企業の中にも、MEMS発振器市場への参入を検討している企業が数社あるという。
この一方で、発振器から可動部をすべて排除したCMOS発振器チップを米Mobius Microsystems社が発表した。水晶振動子とMEMS振動子はいずれも可動部を備えている。Mobius Microsystems社は2008年4月3日(米国時間)、CMOS発振器技術「CMOS Harmonic Oscillator(CHO)」を発表した(参考記事)。この技術は、誘導性/容量性発振器をCMOSチップに集積することで、水晶発振器やMEMS発振器と差異化したものだ。
水晶発振器/振動子メーカーとして業界最大手のエプソントヨコムは、水晶材料にMEMS技術を適用した「音叉型水晶振動子」を製品化している。この製造技術を「QMEMS」と呼ぶ。この技術で製造した発振器は、Discera社やSiTime社が投入しているMEMS発振器と同様に非常に小さい実装面積を実現しながら、一般的な水晶発振器よりも価格が低いという。これに対してDiscera社のマーケティング部門でバイス・プレジデントを務めるVenkat Bahl氏は、「QMEMS技術を適用した超小型水晶発振器は、電子機器メーカーにとって割高である。一方のMEMS発振器は、QMEMSと同様に超小型でありながら、QMEMSと比べて安価である。このため当社のMEMS発振器の価値がさらに高まるだろう。さらにQMEMSは、供給量が足りないという問題もある」と指摘した。
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