「nano tech 2009」では、トランジスタ、メモリー、電池、液晶パネル、プリンタなど幅広い分野で印刷エレクトロニクスの新技術が披露された。
2009年2月18〜20日に東京ビッグサイトで開催されたナノテクノロジ関連の展示会「nano tech 2009」では、トランジスタ、メモリー、電池、液晶パネル、プリンタなど幅広い分野で印刷エレクトロニクスの新技術が披露された。
NECは、全製造工程にインクジェット方式の印刷プロセスを用いたエンハンスメント型の電界効果トランジスタ(FET)を試作した(図1)。移動度は0.1〜100cm2/Vsである。試作した回路には36個のFETが形成されている。すべての製造工程が200℃以下の低温であるため、プラスチック基板が利用できるという。このFETは、ディスプレイ装置ではなく、ユーザー・インターフェース用のセンサー・アレイなどに向くとした。
具体的にはポリイミド基板上に「ナノ銀インク」の微少液滴を滴下した後、乾燥させてゲート電極を形成する。次に、ポリイミド・インクを用いて同じ位置に絶縁膜を形成し、その両脇にナノ銀インクでソース電極とドレイン電極を作る。最後にソース電極とドレイン電極の間にカーボンナノチューブ(CNT)インクを滴下することでトランジスタを形成した。ゲート電極またはソース電極からCNTのチャネルまで約20滴のナノ銀インクを用いて配線を形成した。
「滴下したインクが基板に衝突した際にはじかれず、かつ薄く広がらないよう溶媒の種類と濃度、乾燥条件を選択した」(印刷エレクトロニクス向けインクの開発を手掛けるNEC ナノエレクトロニクス研究所で研究部長を務める萬伸一氏)。今後は、CNTの長さのばらつきを抑える手法の確立が必要だとした。
メモリー関連では、日産化学工業と九州大学の共同開発のほか、欧州企業の有機エレクトロニクス関連の業界団体「Organic Electronics Association(OEA)」の出展が目を引いた。
九州大学は日産化学工業の有機分子材料(HPS)*1)を用いた100μm角の不揮発メモリーを試作した。ガラス基板上に垂直方向に約100nmの間隔を置いて対向するAl(アルミニウム)電極を配置し、その間に平均粒径2.8nmのAu(金)とHPSの複合粒子を、溶媒である8-ヒドロキシキノリンに分散させた材料を挟む。印刷で製造可能であるとした。
パルス電圧の印加によって、抵抗値が2種類の値を採り、ユニポーラ型ReRAM(Resistive RAM)と似た動作を示す。具体的には10Vを500μs間印加すると低抵抗状態から高抵抗状態に移行し、5Vを500μs間印加すると逆方向に変化する。電流は2mA/cm2。読み出し電圧は約2Vであるという。「今後はAu粒子の粒径を変化させた場合の挙動を調べ、メモリー効果を示す原因を解明する」(九州大学先導物質化学研究所先端素子材料部門藤田研究室で学術研究員を務める市川央氏)。
一方、OEAでは8社の個別の回路のほか、薄膜電池や有機ELパネルを組み込んだデモ用フレキシブル基板も展示した。すべて印刷プロセスを用いた。
スウェーデンThin Film Electronics社の出展内容は、上下の電極に挟まれた強誘電体ポリマーからなる不揮発メモリーである。15mm角の面積に1Kビット、6mm角の面積に100ビットのメモリーを印刷によって作った(図2)。「スマート小包」や荷物のトラッキング、偽造品対策、ゲーム用カードなどに応用する。
ドイツBASF Future Business社は、15mm角のTFT基板を3種類の印刷手法を組み合わせて製造した。TFTは4層からなり、1層目のソース電極とドレイン電極にはオフセット印刷、2層目の半導体層にはグラビア印刷、3層目のゲート絶縁膜と4層目のゲート電極にはフレキソ印刷を使っている。
ドイツPolyIC社は、周波数13.56MHz向けのアンテナを含むRFIDタグ「POLYID」を出展した。
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