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携帯電話の充電が数秒で完了、リチウムイオン二次電池の新材料をMITが開発エネルギー技術 二次電池

携帯電話機の充電がわずか数秒で完了する。米Massachusetts Institute of Technologyの研究者らが開発したリチウムイオン二次電池の材料製造技術によって、これが現実になるかもしれない。

» 2009年04月15日 00時00分 公開

 携帯電話機の充電がわずか数秒で完了する――。米Massachusetts Institute of Technology(MIT)の研究者らが開発したリチウムイオン二次電池の材料製造技術によって、これが現実になるかもしれない(図1)。

同大学によれば、リチウムイオン二次電池の正極材料として従来から使われているLiFePO4(リン酸鉄リチウム)の表面にナノスケールの微小な層を形成する製造方法を採ることで、充電速度を最大36倍まで高められる可能性があるという。これまでリチウムイオン二次電池の充電に1セル当たり6分以上かかっていたが、この技術を採用すればわずか10秒まで短縮できることになる。

 しかも、この新技術を適用したリチウムイオン二次電池は、エネルギの放出(放電)速度も高い。大容量のコンデンサを使わなくても、電気自動車やハイブリッド自動車で、ガソリンエンジンに匹敵する加速を実現できる。

 MITによれば、この技術は既存のリチウムイオン二次電池に適用でき、導入が容易という利点があり、早ければ2年以内に商用化される見込みである。MITは同技術の特許を出願済みで、すでに2社に対してこの技術をライセンス供与する契約を結んだという。

図1 図1 リチウムイオン二次電池の電極材料のサンプル 携帯型機器の超急速充電を実現できる可能性を秘めている。出典:Donna Coveney, MIT

 今回の研究を主導したのは、MITでMaterials Science and Engineeringの教授を務めるGerbrand Ceder氏である。同教授の下で研究に取り組む博士課程所属のByoungwoo Kang氏は、「LiFePO4は、その内部につながるトンネルを有しており、そのトンネルの中をLi(リチウムイオン)や電子が高速に移動する。われわれが新たに開発した製造技術によって、バルク材料となっているLiFePO4の表面から内部にLiの移動する距離が短くなり、充放電時間を短くできた」と説明する。具体的には、LiはLiFePO4結晶の010面に沿って移動しやすい性質があるため、010面に沿って拡散しやすい経路を作ればよい。

 かつて科学者たちは、リチウムイオン二次電池の充放電速度が遅い理由は、単にLiと電子の移動度が低いからだと考えていた。ところがCeder教授が約5年前、電池材料としてよく知られたLiFePO4の特性をコンピュータでシミュレーションしていたところ、イオンの移動度は従来考えられていたよりもはるかに高いはずだという結果が得られた。さらにシミュレーション結果を分析してみると、バルク材料の表面には、内部につながるトンネルの数が限られていることも分かった。

 その後、数年にわたって実験を重ねた結果、Ceder教授とKang氏は、LiFePO4粒子の表面に5nm幅の結晶性の悪い1層からなる構造を形成することで、この問題を軽減できることを発見した。そして今回、同技術によってイオン輸送の速度を最大36倍まで高められることを確認した。

 このような表面層を確実に作り込むために、電極材料の製造技術を確立した。LiFePO4の原料として、3種類の材料を用いた。Li2CO3(炭酸リチウム)とFeC2O42H2O(シュウ酸第一鉄)、NH4H2PO4(リン酸二水素アンモニウム)である。アセトン中で3種類の材料を混ぜ、ボールミルで粉砕した後、350℃のAr(アルゴン)雰囲気中で10時間維持した。室温まで冷却後、圧力を加えてペレット状に加工し、再び600℃のAr雰囲気中で10時間維持したという。電極を形成するため、製造したLiFePO4のほか2種類の材料を混合した。比率はLiFePO4が80%、カーボンブラックが15%、バインダとして機能するポリエチレンテトラフルオライドが5%とした。

 MITは今回の表面処理技術をリチウムイオン二次電池の既存の製造ラインに2年以内に統合できるとみており、実用化がそれほど遠い未来ではないことから、「電気自動車向けの家庭用充電器は、この高速充電技術に対応するよう、設計の見直しを迫られる可能性もある」という。ただしKang氏は、「電気自動車の場合、家庭における充電時間は電池そのものによって決まるのではなく、むしろ各家庭にどの程度の電力を供給できるかに左右されるだろう」とも指摘している。

 同大学によるこれまでの実験結果では、LiFePO4の製造法を変えても、従来のバルク材料と同程度の寿命を得られることが分かっている。すなわち、電池を劣化させることなく、繰り返し高速な充放電が可能だという。

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