対応周波数が100M〜1GHzの周波数帯を使うアンテナの設計者と、この周波数帯用のアンテナを組み込む無線機器の開発者には朗報となりそうだ。
対応周波数が100M〜1GHzの周波数帯を使うアンテナの設計者と、この周波数帯用のアンテナを組み込む無線機器の開発者には朗報となりそうだ。住友大阪セメントと東北大学未来科学技術共同研究センター教授である大見忠弘氏の研究グループは、100M〜1GHzの周波数範囲で比透磁率(μr)が高いことを特長とする磁性材料を開発した*1)。「磁性誘電体材料」と呼ぶ(図1)。磁性粒子を樹脂に混ぜ込んで形成したもので、μrは5、樹脂にポリエステルを使った場合の比誘電率(εr)は20程度である。
「これまでの磁性材料は、100MHzを超える周波数領域になると比透磁率が(真空中と同じ)1に低下していた。この周波数領域で、比透磁率が高い新材料が開発されたインパクトは非常に大きい」(大見氏)と強調する。例えば、この磁性材料をアンテナ基板に使えば、波長の短縮効果*2)によって、放射効率や利得を低下させることなく、アンテナの小型化が図れる。
また開発した材料では、樹脂に混ぜる磁性粒子の量を変えることでμrを調整可能である。これを生かせば、アンテナのインピーダンス整合を比較的容易に実現できたり、アンテナの広帯域化が図れたりというメリットが得られるとする。現在、住友大阪セメントが量産技術の確立に向けた開発を進めている。具体的には、「樹脂の耐久性を高めたり、製造ばらつきを抑えたりといった取り組みを急ピッチで進めている」(同社の新規技術研究所新材料研究グループで主席研究員を務める小西幹郎氏)。ワンセグ放送受信向けをはじめ、幅広い用途に使える。
比透磁率を高めるために、磁性材料の加工や製造技術を工夫した。採用した材料そのものは、磁性材料として広く知られる、Ni(ニッケル)とFe(鉄)を78:22の割合で合金した「パーマロイ」である。ただし、パーマロイをこれまでと同じように使うと、100MHzを超えるような高周波帯域でエネルギ損失(磁気損失)が大きくなってしまう。そこで、パーマロイを直径200n〜400nmの粒子に加工した。
従来のように磁性粒子の直径が1μm以上と大きいと、高周波の電磁波が透過する際に、粒子表面部分にのみ電磁波が染み込み、粒子内部には電磁波が透過しない領域が生まれる。このような「表皮効果」が磁気損失の原因だと考えた。「粒子をナノ化して磁気損失を抑えるというアイデアそのものは、50年前から持っていた。ただ実際に、ナノ加工技術が確立し始めたのは2000年ころ。ナノ技術が登場したときには『しめた』と思った」(大見氏)。
ナノ化した上で、透磁率を高めることを目的に磁性粒子を扁平(へんぺい)状に加工した。一般に、磁性体の特性を表す磁気モーメントの大きさは磁極の強さと磁極間の距離で決まる。従って、扁平状にすることで磁気モーメントの大きさを向上させて、透磁率を高められる。実際、扁平状にしたことで、μrを2から5に高めることに成功した。
「試行錯誤の結果、第3の成分としてZn(亜鉛)を混ぜれば良いことを発見した。NiとFeだけだと、扁平状に加工する工程で割れてしまう」(小西氏)。扁平状にしたことで、電磁波の到来方向に対して特性が変わる「異方性」を持つことになる。この点については、「アンテナ素子の実装に気を配れば、そう大きな問題ではない」(大見氏)と説明した。
磁性粒子を樹脂に混ぜる製造工程も工夫した。樹脂中で磁性粒子が「凝集」してしまうと、せっかくナノ化したのにその効果が薄れ、磁気損失を抑制できない。そこで、粒子同士が凝集しないように界面活性剤をコーティングするなどして、樹脂中に均一分散させるようにした。このような工夫により、磁気損失を表す指標である「tanδ」を周波数が1GHzのとき0.1を切る値に抑えた。「アンテナ材料として十分に使えるレベルである」(小西氏)。
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