産業技術総合研究所は、太陽電池の変換効率を高めるために開発中の量子ドット積層技術の成果を発表した。10層積層した場合に、変換効率8%の量子ドット太陽電池として機能することを実証した。
産業技術総合研究所は、太陽電池の変換効率を高めるために開発中の量子ドット積層技術の成果を発表した(図1)。量子ドットを乱れなく50層積層した他、10層積層した場合に、変換効率8%の量子ドット太陽電池として機能することを実証した。太陽電池の変換効率を60%以上に高められる可能性を秘める。
太陽電池開発の課題は、材料コストや製造コストの低減に加え、太陽光から電力への変換効率向上とされている。現在量産されている太陽電池の中では単結晶Si(シリコン)方式の変換効率が高く、20%を超える。これに多結晶Si太陽電池が続く。ただし、単結晶Si太陽電池の変換効率には理論上の上限が存在し、約30%までしか高められない。これはSiのバンドギャップ・エネルギーよりも低いエネルギーを持つ光子をまったく利用できず、バンドギャップ・エネルギーよりも高いエネルギーを持つ光子を利用しても、エネルギーの取り出し過程で損失があるからだ。
これ以上の変化効率を実現するには、複数のpn接合を含む多接合方式(タンデム方式)が有望である。異なる材料でpn接合を形成すれば複数のバンドギャップを設定できるからだ。
例えば、ドイツFraunhofer Instituteは多接合方式を用いて41.4%という高い変換効率を実現した。具体的には入射光が到達する順にGaInP(ガリウム・インジウム・リン)、GaInAs(ガリウム・インジウム・ヒ素)、Ge(ゲルマニウム)基板という3接合を積層した。バンドギャプが最も高いGaInPで、エネルギーの高い短波長の光を効率良く吸収する。エネルギーの低い光は透過する。その後、中波長、長波長の光を順に吸収することで高い効率を得た。
積層する層の数を増やし、短波長から長波長までの光を満遍なく吸収できるよう、層によって少しずつバンドギャップを変えることができれば、さらに高い変換効率が得られるだろう。しかしながら、バンドギャップの値は物質に固有であるため、自由にバンドギャップを変えられず、3〜4接合のものが開発されているにすぎない。
このような限界を超えるのが量子ドットである。量子ドットを用いることで、変換効率の理論上限が一気に60%以上に高まる。
量子ドットは直径10nm程度の微細な結晶であり、ポテンシャル障壁によって周囲の材料から3次元的に囲まれている。量子ドット中に電子を閉じ込めることで、電子が量子力学的な波として振る舞うようになる。ここで量子ドットの寸法を大きくしていくと次第に波長の長い光を吸収するようになる。これを応用すると、バンドギャップを少しずつ変えた積層構造が実現できる。
さらに複数の量子ドットを規則的に配置することで一定の値を持つエネルギー準位が幅を持った中間バンドに変化し、光吸収帯として機能し、太陽光の全スペクトルを効果的に吸収できるようになる。
量子ドット太陽電池を実用化するには、量子ドットを単独で形成できることはもちろん、量子ドットが3次元状の格子(超格子)を形成するように規則的に並べる必要がある。
今回の成果は、GaAs基板上にInGaAsからなる量子ドットを50層にわたって規則正しく積層したというものだ。「MBE(Molecular Beam Epitaxy)法を用いて積層した。実際には50層以上の試作にも成功している。今回の積層では材料の格子定数が異なることを吸収する歪補償層を使っていないため、量子ドットとしての特性を高めやすい。具体的な積層手法については、今後学会で発表する」(産業技術総合研究所太陽光発電研究センターで副センター長を務める仁木栄氏)。積層した量子ドットが超格子として機能し、中間バンドが形成されたことも確認した(図2)。
さらに量子ドットを用いて太陽電池を試作した。変換効率は8.0%だった。量子ドットの組成はIn0.4Ga0.6Asである。短絡電流は14.6mA/cm2、開放電圧は0.758V、曲線因子は0.721だとした。
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