CIGS系太陽電池は、国内で広く普及しているSi太陽電池よりも必要な材料の量が少なく、低コストで製造できる。青山学院大学の研究は、CIGS系太陽電池の変換効率向上を妨げていた要因を解明したことだ。
青山学院大学は、Cu(銅)とIn(インジウム)、Ga(ガリウム)、Se(セレン)を含む薄膜を用いるCIGS系太陽電池*1)の変換効率を18.8%に高めることに成功した(図1)。薄膜成膜時にパルス・レーザーを用いるレーザー・アシスト成膜(LAD:Laser Assisted Deposition)法を適用したことが変換効率改善につながった。
*1)CIGS系太陽電池は、日本国内では昭和シェル石油の100%子会社である昭和シェルソーラーと、本田技研工業の100%子会社であるホンダソルテックが量産している。モジュール効率は11〜13%程度である。
CIGS系太陽電池は、バルクSi(シリコン)を用いる太陽電池と比べて、コストが低い。製造工程がバルクSi系の1/2であることに加え、InなどSiよりも材料コストが高い元素を用いるものの必要な材料の量が1/100で済むためだ。材料が少なくて済む理由は、CIGSの光吸収係数がSiよりも高く、光吸収層を数μmまで薄くできるためである。この結果、CIGS系太陽電池のモジュール価格は、多結晶Si太陽電池のモジュール価格である2〜3米ドル/Wを大きく下回ることが可能になる。
変換効率でもバルクSi系と同等に達する可能性がある。CIGS系太陽電池の変換効率は理論上限値が約30%であり、これはSi系とほぼ同じだからだ。「Si系の現在の上限である24%には到達できそうだ」(青山学院大学理工学部電気電子工学科の教授である中田時夫氏)。
CIGS系太陽電池の光吸収層の組成は、Cu(In1-xGax)Se2である。Gaの比率に比例して開放電圧(VOC)が上がる性質を持つ。理論上、Inの比率がゼロの場合(バンドギャップに換算して1.4eVの場合)、変換効率が最も高くなり、30%に達する。
ところが、実際にGaの比率を上げていくと、バンドギャップが1.2eVに達した段階で開放電圧が理論計算よりも下がり始める。これがCIGS系太陽電池の効率向上を妨げてきた。「現在効率が最も高いCIGS系では1.12eVに相当する。これを1.4eVに高めたい。VOCが下がるのは、光吸収層における結晶欠陥が原因だと考えられる。加えて光吸収層とバッファ層の界面でのバンド・オフセットが大きいために開放電圧が下がる効果もあるだろう」(中田氏)。そこで、結晶欠陥を少なくするためにLAD法を導入した。
バンド・オフセットを小さくするため、バッファ層に、通常用いられるCdS(硫化カドミウム)の代わりに亜鉛硫化物であるZnS(O, OH)を用いた。
LAD法では、成膜中に周波数100Hzのパルス・レーザーを成膜面に照射した。強度30mJ、波長266nmのYAGレーザーを用いた。
「レーザー光には熱を与える効果と光量子によってエネルギを与える効果がある。そのどちらがCIGS層の成膜に寄与しているのかを、波長の異なる複数のレーザーを用いて確かめた。すると、特定の波長よりも短いときに成膜したCIGS層での電子移動度が高まることが分かった。そのときの走査型電子顕微鏡像やX線像を見ると結晶構造の乱れが少なくなっていた。レーザー照射時の表面温度の上昇はわずか4℃に過ぎなかったのでレーザーの熱ではなく、光量子の効果が寄与していることが分かった」(中田氏)。
CIGS光吸収層の成膜には、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法を用いている。4つの元素を真空装置中で別々に分子線として基板に照射する。この際、Seは、安定なSe8という輪状の分子構造を保っているという。Se8のまま基板に衝突すると、他の元素の原子とSe原子が組成式の比率に応じて均一に並ばなくなり、結晶を形成しにくい。「波長266nmのレーザーの光子のエネルギは、Se8を個々のSe原子に分解する際に必要な3eVを超えている。これがLAD法で結晶構造を改善できる理由だろう」(中田氏)。
今後は、低温形成と変換効率向上を目指す。2010年に小面積セルで変換効率20%、30cm2のサブモジュールで18%を達成するとした。
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