なぜ携帯電話機に仮想化ソフトが必要なのだろうか。例えば、IT部門の管理者は、携帯電話機を利用した社外からのアクセスを制限したいと考え、社員は自由に社外からアクセスしたい。このような場合に役立つ。機種移行や子ども向けのアクセス先制限にも使えるという。
米VMwareは、携帯電話機向けの仮想化ソフトウェア「VMware Mobile Virtualization Platform(VMware MVP)」の開発版デモを日本国内で公開した(図1)。同社が2008年11月に買収した仏Trango Virtual Processorsのハイパーバイザ技術に基づく。1台の携帯電話機(スマートホン)に2つ以上のOSをインストールし、同時に稼働可能だという。例えば1台のスマートホンを個人で利用する場合と業務で利用する場合に、OSごと分離するという用途がある。
「スマートホンは単なる通話用の機器ではなく、小型のPCとして使われている。つまり、PCの良いところと悪いところのどちらも受け継ぐということだ。具体的にはアプリケーション・ソフトウェアのインストールやデータ管理、セキュリティ維持が重要になる」(同社のDirector, Product Management and Market Development, Mobile MarketingのSrinivas Krishnamurti氏)。
例えばIT部門の管理者は、携帯電話機を利用した社外からのアクセスを制限したいと考える。一方、社員は自由に社外からアクセスしたい。このような場合、VMware MVPで仮想化された安全な携帯電話機向けOS環境を利用することで、相反する要求を満たせるとした。
同社はPCの仮想化ソフトウェアに向けて、特定用途向けにOSとアプリケーション・ソフトウェアをあらかじめインストールしてある各種の仮想化環境「Virtual Appliance」を提供している。Virtual Applianceは、同社の仮想化ソフトウェア上でそのまま実行できる。同様にVMware MVP上で動作するVirtual Applianceとして、同社がLinuxを基に開発したOS「JEOS(Just Enough OS)」とアプリケーション・ソフトウェアの組み合わせを提供したいとした。
企業内での利用以外にも、仮想化のメリットがある。スマートホンをPCとして利用し続けた場合、各種データやアプリケーション・ソフトウェア、設定情報などが蓄積していく。その場合、ほかの機種に移行しようとしても、困難な場合がある。もしスマートホンが仮想化されていれば移行が容易になる。このほか、スマートホンを子どもに与える場合に、アクセス先を制限するなどのポリシーを導入した専用OSを適用することもできるとした。
スマートホン向けソフトウェアの開発者にとっては、仮想化ソフトウェアによって機種ごとのハードウェア構成などの違いを吸収でき、ソフトウェアの開発期間や開発コストを引き下げられるメリットがあるという。
VMware MVPはハイパーバイザとして実装されている。コード・サイズは約30Kバイトと小さい。対応するマイクロプロセッサ・アーキテクチャは、ARM(ARMv4〜ARMv7)である(TrangoのハイパーバイザはMIPSにも対応した)。米Googleの「Android」のほか、英Symbian Foundationの「Symbian OS」、米Microsoftの「Windows CE」、トロンプロジェクトの「μITRON」、英eCosCentricの「eCos」、米Micriumの「MicroC/OS-II」がVMware MVP上で動作するという。
「VMware MVPはマイクロカーネルと各種のデバイスドライバソフトウェアから構成されている。デバイスドライバは2つの部分に分かれる。機器メーカーが開発するBSP(Board Support Package)と呼ぶ部分と、当社が開発する機器ごとの差異を吸収するラッパー部分である」(VMwareのDirector of Product Management, MVPのPierre Coulombeau氏)。
ハイパーバイザ上で動作するゲストOSは、ラッパー部分にアクセスすることで電源管理や通信管理などの操作を実行できる。デバイス・ドライバを機種依存部分と非依存部分に分けた構成を採るため、各種の携帯電話機にVMware MVPを対応させるためのVMwareの開発工数を抑えられる。VMware MVPが動作していれば、異なる構成のスマートホンであっても、ある1つのOSとアプリケーション・ソフトウェアの組み合わせが稼働するとした。
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