増幅回路を設計する際には、温度に対する特性変化にも気を配る必要があります。今回は温度変化への対策方法を紹介しましょう。
増幅回路を設計する際には、温度に対する特性変化にも気を配る必要があります。前回は、エミッタ接地増幅回路の周辺部品の定数をどのような手順で決めていくのかを紹介しました。設計した増幅回路が図1です。この増幅回路では、ピーク・ツー・ピーク値で10mV(「10mVpp」と記載)の入力信号を1Vppに増幅して出力するという当初の目標は達成できたのですが、温度特性が悪いという欠点がありました。
例えば、トランジスタの接合部温度Tj*1)が25℃のときは1Vppを出力できていたのが、−40℃といった低温や125℃といった高温になると、目標を達成できなくなるのです(図2)。図2(a)でTjが125℃のときの出力信号を見ると、波形の下側がひずんでしまっています。これでは、入力信号を目標通りに増幅して出力するという増幅回路そのものの目的を果たせていません。
今回は温度変化への対策方法を紹介しましょう。高温状況や低温状況でも波形をひずませずに、入力信号を増幅できます(図3)。温度対策の鍵は、バイアス抵抗であるR1とR2の設定にあります。
前回は詳しく触れませんでしたが、実はトランジスタには温度によって変化する特性が数多くあります。温度に対して変化しない特性は無いと言ってもよいくらいです。このうちで最も重要で、気を配るべきものはベース-エミッタ間電圧(Vbe)に関する特性です。
トランジスタのVbe-Ic(コレクタ電流)特性が温度に対してどのように変化するかを図4に示しました。トランジスタのTjが−40℃と25℃、125℃の場合を、それぞれ線の色を変えて描いています。図4からも分かるように、温度が上昇すると、Vbe-Ic特性のカーブが左側(Vbeが低い方)にシフトします。つまり温度が上がると、同じ値のIcを流すために必要なVbeが減少します*2)。ベースに印加する電圧が一定でも、温度が高くなればなるほど、Icがどんどん流れてしまう状態になるのです。
図1に示した増幅回路でも、温度によってトランジスタのVbe-Ic特性が変わるにもかかわらず、ベースに印加する電圧(Vbe)をR1とR2の抵抗で分圧した固定値としているので、Icが大きく変化してしまいます。例えば図4を見ると、Vbeが0.86Vの場合、−40℃の低温ではIcがほとんど流れないのに対して、125℃の高温ではIcは膨大な値になります。高温状況や低温状況でも波形をひずませることなく入力信号を増幅させるには、温度が変化してもIcがなるべく変わらないようにする必要があります。
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