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ワイヤレス送電第二幕、「共鳴型」が本命かワイヤレス給電技術 共鳴方式(3/9 ページ)

» 2009年10月05日 00時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

 MITの論文発表をきっかけに、数多くの企業や研究機関がこの共鳴方式に関する研究開発を開始した(図3)。例えば、米Intel社は2008年8月に開催した開発者向け会議「Intel Developer Forum(IDF)」で「Wireless Resonant Energy Link(WREL)」と呼ぶワイヤレス送電技術を開発していることを明らかにした。米Qualcomm社は、「eZone」と呼ぶ送電技術を開発し、2009年2月に開催された展示会「Mobile World Congress 2009」でこれを組み込んだ携帯電話機を動かして見せた。

図 図3 共鳴方式の歴史 2007年にMITが共鳴現象を利用してワイヤレス送電可能なことを実証して以降、さまざまな企業や研究機関が研究開発を推進している。

 MITから技術移転を受けたベンチャー企業である米WiTricity社は、電気自動車やデジタル家電、パソコン、携帯電話機、産業工具といったさまざまな分野の試作機をすでに作成済みである(図4)。図4(a)は、ノート・パソコンと携帯電話機に向けて、同時に電力を供給している様子である。ノート・パソコンの2次電池は取り外してあり、無線で供給した電力で直接ノート・パソコンを稼働させている。ノート・パソコンに組み込んだ受電側コイルと送電側コイルの面は正対せず直交した状態だ。送電側コイルはコルク・ボードの裏側にあり、携帯電話機に対して同時に送電することも可能である。

図 図4 実用化を意識した試作機 MITから技術移転を受けた米WiTricity社が作成した試作品の数々。共鳴方式のワイヤレス送電機能を組み込んである。

 図4(b)は、電気自動車での利用を想定した試作機である。送受電コイル間の距離はおよそ13cmで、コイルの結合部の伝送効率は95%だという。kWクラスの電力を送電可能である。自動車の筐体を模した鉄板があった場合でも高い伝送効率が得られる。図4(c)では、小型液晶テレビに無線で電力を供給して直接稼働させた。送電側コイルと受電側コイルの向きは直交しているが、十分な電力が送れるという。図4(d)は、机に埋め込んだ送電側コイルで複数の携帯電話機を同時に充電している様子。図4(e)に示したように、送電側コイルから数10cm離した場合でも充電可能だとする。数10cm離せれば、携帯電話機を入れたかばんを机の上に置いたり、ポケットに入れたまま机に近づけるだけで充電できる。

 日本国内の企業については、2009年8月に開催された環境関連の展示会「信州環境フェア2009年」で長野日本無線がデモを披露したほか、昭和飛行機工業が、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け、移動中の電気自動車に対するワイヤレス送電の可能性について研究している。このほか複数の大学が研究開発を進めている。

*2. コイルの結合部の伝送効率である。直流電圧を高周波の交流電圧に変換する送電側の電源回路部や、受電側の整流回路の効率は含まれていない。

活用範囲は広がる

 高い伝送効率を維持したまま送電距離を伸ばせれば、恩恵を受けられる製品分野は格段に増える。

 まず、2次電池で稼働させる携帯型電子機器の分野がある。現在、身の回りには2次電池を内蔵した数多くの携帯型電子機器があり、その種類は増える一方だ。スマートホンやネットブック、ネットブックをさらに小型にした携帯型情報端末(MID)が、続々と市場に投入されている。これらの携帯型機器の特徴は、高機能かつ多機能ながら、小型で携帯性に優れているという点である。ただし、高機能/多機能化の一方で、内蔵電池の容量はなかなか増えていない。「リチウムイオン2次電池が開発されてほぼ20年になり、その間にエネルギ密度は2倍以上になった。しかし、その成長曲線は飽和しつつある。現在の技術で電池容量を高めようとすると、安全性のマージンが下がってしまう」(NTTドコモの移動機開発部技術推進担当部長を務める竹野和彦氏)という指摘がある。この結果、これらのスマートホンやネットブックなどでは機器の稼働時間よりも携帯性を優先しているのが現状だ。

 ワイヤレス送電技術を使ってユーザーが無意識のうちに充電できるようになれば、この課題は解決する。例えば、机に送電器を組み込んでおけば、その机の周囲にスマートホンを入れたかばんを置いたり、洋服のポケットに入れたままいすに座ったりするだけで、充電可能だ。夜寝る前に充電台に差し忘れて翌日の朝に焦ったり、電池容量を気にして使用したりすることも無くなるだろう。

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