また、今後普及が見込まれる電気自動車にもワイヤレス送電技術は重要である。「電気自動車の普及は、充電作業をいかに容易にするかにかかっているだろう」(昭和飛行機工業の特殊車両総括部EVP事業室で技師長を務める高橋俊輔氏)と指摘する声は多い。ここにワイヤレスで電力を供給する技術が生きる。
現在実用化または開発中の電気自動車は、1回の充電当たりの走行距離が最大160km程度と、現在のガソリン車に比べると大幅に短い。しかも、暖房や冷房といった空調を利用した場合、この値はさらに短くなる。このため、電源ケーブルを使って充電するとなると、現在のガソリン車に比べて動力源(電気)を供給する作業頻度は大きく増えてしまう。ワイヤレス送電の設備を自宅の駐車場に設置しておけば、単に車を止めるだけで充電でき、電源ケーブルを接続する手間は生じない。さまざまな商業施設の駐車場にあらかじめ設置するといったようにインフラとして整備されれば、充電作業が必要なことを意識することすら無くなるだろう。
安全性の観点からも、ワイヤレス送電技術のメリットは多い。電気自動車を利用するのは晴れた日ばかりとは限らない。雨の日もあれば、嵐の日もあるだろう。ワイヤレス送電技術を使えば、雨の日に屋外で充電する場合でも接続部がぬれてしまう危険性は無い。もちろん、電気自動車では感電しないような仕組みが搭載されるものの、電源ケーブルと金属接点の接続部がぬれてしまった場合、乾燥させる必要がある。
電気自動車のほかにも、電動バスにニーズがありそうだ。「電動バスに利用されている2次電池は、高価でしかも重い」(同氏)。2次電池の重量を減らせればその分、単位電力量当たりの走行可能距離が長くなるものの、電気容量が減ってしまい走行可能距離は短くなってしまう。そこで、バス・ステーションに戻るたびに、ワイヤレス送電技術を使って充電すれば、手間を掛けずにこのジレンマを解消できるというわけだ。
上記に説明した電気自動車や電動バスに関するワイヤレス送電技術のメリットすべては、共鳴方式に限らずほかの方式でも得られる。実際、日産自動車は2009年7月に開催した「先進技術説明会」で、電磁誘導方式のワイヤレス送電装置を搭載した電気自動車を公開した(図5)。また、昭和飛行機工業では同方式のワイヤレス送電装置を使った電動バスの実証実験を数多く実施している。ただ、位置を厳密に合わせる必要のない共鳴方式を使うことで、自動車やバスの駐車位置の自由度を格段に高めることが可能だ。「移動中の電気自動車や電動バスへのワイヤレス送電に共鳴方式は有効だ。非常に期待している技術である」(同氏)。
このほか、カプセル内視鏡といった、体内で動作させる医療機器に加えて、移動しながら稼働させる産業機器やロボットに対しても共鳴方式は有効である。電磁誘導方式では充電中には動作を止める必要があるのに対して、共鳴方式を採用すれば動作させながら充電できる。
共鳴方式を使ったワイヤレス送電技術の研究開発は始まったばかりで、もちろん実用化に向けた課題はいくつかある。現在、これらの課題解決を目指した取り組みが進められている。実際の製品を利用した試作機を複数作成しているWiTricity社では、「2010年の後半には、何らかの最終製品が市場に登場するのではないか」(同社のPresident兼CEOを務めるEric Giler氏)と意気込む。
これまで長年、研究開発が進められてきた電磁誘導方式と、マイクロ波を使った電磁波方式に関しても、技術開発は着実に進む。電磁誘導方式に関しては、受電側コイルの設置自由度を高める取り組みがある。携帯型機器向けワイヤレス送電モジュールの高効率化と安全性の確保に向けた技術開発は、2004年ころに一段落したようだ。次の開発動向として、例えば送電側コイルを複数使ったりすることで、受電側コイルの位置をきっちり合わせなくても、高い伝送効率を維持する仕組みの開発がある。マイクロ波帯の電磁波を利用した方式に関しては、大電力の長距離伝送のみならず、多数のセンサー端末に向けてmWレベルの小電力を同時供給するという用途を想定した研究が進められている。ワイヤレス送電技術を実現する3つの方式の特徴などを表1にまとめた。
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