情報通信技術を活用した健康管理サービスや、医療機器を相互に連携するためのガイドラインを策定する非営利団体Continua Health Alliance(コンティニュア)は2010年2月17日、日本向けに提供するサービスを発表し、今後の方針を示した。
同団体は、予防的な健康管理と慢性疾患の管理、高齢者の自立生活支援の3つを主な目標として医療機器や健康管理機器の相互接続や、インターネットを利用した健康管理サービスの実装に関わる規格を策定している。2009年2月には、設計ガイドライン第1版を公開している。コンティニュアのプレジデントを務めるRick Cnossen氏は「次期版となる第1.5版は、2010年第2四半期中に公開する予定だ。狙いは電源が小さい機器への対応であり、従来以上に幅広い分野の機器を狙う。BluetoothやZigBeeの低消費電力規格に対応する見込みだ」という(図1)。
Bluetoothの普及を推進する業界団体「Bluetooth Special Interest Group(Bluetooth SIG)」は、2009年12月にBluetooth規格の新版「Bluetooth Core Specification Version 4.0」の策定が完了したと発表している。低消費電力での無線通信を可能にする技術「Bluetooth Low Energy」を盛り込んでおり、通信速度は1Mビット/秒に達する。適応型周波数ホッピング技術を用い、通信可能距離は100mを上回る。
Bluetoothなどの通信用ICの開発、販売を手掛けるシーエスアールのアプリケーショングループ シニアフィールドアプリケーションエンジニアである小島季之氏は「Bluetooth 4.0は当初の予定では2010年6月に仕様が公開される見込みだったが、多少遅れそうだ。Bluetooth 4.0には、コンティニュアの設計ガイドライン第1.5版にのみ的を絞ったような仕様はないものの、4.0で十分対応できる」という。同社は今後、Bluetooth Low Energyのみに対応したBluetoothチップと、従来仕様にも対応したデュアルバンドのBluetoothチップの両方を製品化する。ヘルスケア・ソフトウエア用のソフトウエア開発キット(SDK)も開発するとした。
オムロンの商品事業統轄部ネットヘルスケア事業開発部の小川浩司氏は「コンティニュア設計ガイドライン1.5版には期待している。これまで電源が小さくて対応が難しかった機器にも応用でき、無線接続ができなかった機器を取り込めるからだ」という。例えば、「CR3032」などの1次電池で駆動する歩数計は、現在、コンティニュアの設計ガイドラインに対応する外部アダプタに接続し、アダプタからデータを無線で送信する形を採っている(図2)。これはボタン型電池ではBluetooth接続に必要な電力が確保しにくいからだ。さらに容量が小さい「LR-41」などの1次電池を内蔵する体温計は、現在コンティニュアの設計ガイドラインに対応ができていない。これも1.5版であれば無線接続が可能になるという。訪問看護や病院などでは体温を計る場面が多く、電源が小さい機器への対応要求は多いとした。
タニタの開発部に所属する竹原克氏は1.5版で小さい電源の機器にも応用できるようになることに対して、「製品のイメージ改善とコスト低減に役立つ」という。例えば、体重計に内蔵する電池は1年間は利用できると考える消費者が多いという。しかし、コンティニュア設計ガイドラインの1.0版に従ってBluetoothでほかの機器に接続すると、約半年で電池の交換が必要になり、製品イメージが低下する可能性があったという。さらに、小さい電力で動作する送受信回路を利用すると、部品コストを引き下げることができ、コンティニュアに対応しても機器の単価をそれほど上げずに済むとした。
コンティニュア対応サービスも登場
今回の発表会では、加盟企業のうち14社が関連する健康機器や健康管理サービスを発表した。
コンティニュア・ヘルス・アライアンス 日本地域委員会の代表企業であるインテルの代表取締役社長を務める吉田和正氏は、同時にサービスを発表した2社の事例と、今後サービスを開始する1社の事例を紹介した。
例えば、訪問看護など看護サービスを提供するセントケア・ホールディングは、ASP(Application Service Provider)技術を用いた訪問看護支援システム「看護のアイちゃん」を発表した。看護利用者の健康データを自動で管理できることにメリットがあるとした。これまでは看護士が手書きで測定データを記入していたが、時間がかかり、ミスが発生する可能性もあった。コンティニュア対応の体重計と血圧計、パソコンを利用してシステム化することでミスを排除できるという(図3)。
医療のあり方を変える可能性も
帝京大学の本部情報システム部で部長を務め、帝京大学医学部付属病院で麻酔科学講座を担当する澤智博氏は、コンティニュア・ヘルス・アライアンスの取り組みが、医療のあり方自体にも影響を与えるとした。
具体的には、従来のヘルスケアと今後のヘルスケアの違いを3組のキーワードという形で紹介した。「従来は、反応的・対症的、疾病中心、断片的だったが、新しいヘルスケアは先行的・予見的、生活スタイル中心、連続的・継続的でなければならない」(同氏)という。従来のヘルスケアは体調が悪くなって初めて病気を治療し、治癒後は何もしないというものだとした。今後は、普段の生活の中で常にデータを収集し、持病を持つ人向けには、症状が悪化しないように管理するようなサービスを提供できる。健康な人向けなら、病気にかかる前に生活スタイルを改善するようアドバイスするサービスも考えられる。
このような目的を達成するには、医師の診療活動を拡張することが必要であり、そのためにコンティニュア・ヘルス・アライアンスの取り組みが役立つという(図4)。医療機関においても入院患者のベッドサイドでは依然として人手によって測定データを転記している。負担が大きく、ミスにもつながりがちだとして、「ベッド・サイドがヘルスケアにおけるラスト・ワン・マイルである」と位置付けた。
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