米国の大学Princeton Universityの研究者たちは、有機物を原料とする導体、半導体、絶縁体をポリマー基板上にインクジェット印刷によって形成できれば、プラスチック製のトランジスタを作れると語っている。それが現実になれば、有機薄膜太陽電池の価格を大幅に下げられるとも言う。
そして、同大学のYueh-Lin (Lynn) Loo准教授(図1)の研究チームは、プラスチック製トランジスタを現実のものにする技術を開発した。彼女によると、この技術を利用すれば、透明電極に用いる高価で希少なITO(酸化インジウムスズ)を必要としない太陽電池セルができるという。
Loo氏は、「導電性ポリマーをインクジェット印刷の前工程で溶剤に溶かしてしまうと、導電性がほとんど失われてしまうが、我々は今回、その仕組みを解明した。インクジェット印刷で回路を作った後で、ある種の酸で後処理をすれば、失った導電性を回復できる。この技術が普及すれば、既存の太陽電池に使用されているITOの代わりに有機材料を使えるようになる」と説明する。
導電性ポリマーは、発見されてからすでに10年以上経つもので、新しい材料ではない。しかし、ポリマーをインクジェット方式で印刷するとき、導電性ポリマーを溶剤に溶かしてしまうと導電性が最大で1/1000まで低下してしまう。
Loo氏率いる研究チームは、インクジェット印刷を施した回路を特殊な酸で後処理することで、ポリマーの分子の結合を緩くし、印刷前の状態、つまり導電性が高い状態に戻せることを発見した。Loo氏のチームが開発した技術では、硬質プラスチックを柔軟にする可塑化処理に似た手法で、溶剤に溶かした際に失われたポリマーの導電性を回復させるという(図2)。
Loo氏によるとこの技術を使えば、現在多くの太陽電池が材料として使っているITOを、すぐにでも導電性ポリマーに置き換えられるという。またこの技術の開発が進めば、材料としてプラスチックだけを用いた大型ディスプレイや医療診断装置などにも応用できるという。
この研究プロジェクトは、米国立科学財団(NSF:National Science Foundation)と、米W.M. Keck Foundation、米Arnold and Mabel Beckman Foundationから資金提供を受けている。
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