今回からは新たに、「差動対」と呼ぶ基本回路の特長と動作の仕組みを説明します。差動対がなければ、現在のように電子回路が発展していないと言ってよいほど、重要な回路です。
これまで、エミッタ接地増幅回路を中心に、エミッタ・フォロアやベース接地回路の動作について解説してきました。今回からは新たに、「差動対」と呼ぶ基本回路の特長と動作の仕組みを、2回に分けて説明します。
差動対は、オペアンプやコンパレータ(比較器)といった基本的なアナログ回路のさらに基本となる回路です。差動対がなければ、現在のように電子回路が発展していないと言ってよいほど、重要な回路です。今回は差動対の特長について、次回はその動作について説明します。
差動対を図1に示しました。これまで説明してきたエミッタ接地回路やエミッタ・フォロア、ベース接地回路といった基本回路は1つのトランジスタで構成していたのに対して、差動対は読んで字のごとく「差で動く対」で、入力信号の差分に応じて動作する1対(2個)のトランジスタを使います。
図1ではQ1とQ2が対になっています。動作の仕組みは次回説明しますので、ここではこの回路の形を覚えて下さい。これまで説明してきた基本回路とは異なり、2入力、2出力の回路です。通常、入力には振幅が同じで位相が180°反転している(逆相の)信号を入力します。
この差動対には、数多くの特長があります。まず、リミッタ機能を備えていることが挙げられます(図2)。差動対は、増幅回路として動作し、2つの入力信号をそれぞれ線形増幅します。ただし、入力信号の振幅が大きくなり過ぎたときには、出力信号の振幅を任意の値に制限し、周波数特性が良好になる振幅の範囲でトランジスタを動作させることができます。
一般にバイポーラ・トランジスタは、本連載の第5回で取り上げた「飽和領域」で動作させてしまうと周波数特性が極端に悪くなります。詳細は割愛しますが、飽和領域での動作にならないように余裕を持って、コレクタ電圧がベース電圧より高くなるように設計するのが普通です。出力信号(つまり、コレクタ電圧)の振幅を制限することで、コレクタ電圧がベース電圧よりも低くなることを防げます。
図2は、入力信号の振幅が大きくなり過ぎた場合に、出力信号を制限した様子を示しました。振幅が矩形に歪んでいます。それでも、高速デジタル信号の受信器のうち、波形のひずみよりも高速動作を目的とした回路では十分に適用可能です。
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