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» 2010年05月17日 16時39分 公開

「携帯電話機市場でシェアを伸ばしていく」、MIPS社の新CEOが語るARM社追撃の戦略プロセッサ/マイコン

[Junko Yoshida,EE Times]

 プロセッサIP(Intellectual Property)を開発、販売する米MIPS Technologies社は、携帯電話機向けプロセッサを手掛けるアジアの大手メーカーとライセンス契約を締結したと発表した。

 MIPS Technologies社は、英ARM社が圧倒的な優位を占める携帯電話機市場において、シェアを伸ばすという目標を掲げている。しかしそれは、多くの業界アナリストの目から見て、実現不可能な夢でしかなかった。MIPS Technologies社の目標はいまだ野心的なものであることには変わりはない。しかし、MIPS Technologies社は今回の契約締結によって、半年ほど前は夢でしかなかったこの目標が、実現可能なものであることを証明してみせた。

図1 図1 米MIPS Technologies社のCEOを務めるSandeep Vij氏
穏やかな口調で、MIPS Technologies社のプロセッサ・コアが持つ利点を語った。

 MIPS Technologies社のCEOを務めるSandeep Vij氏は、そのライセンス供与先の企業名を明らかにしようとしない。ただ、今回の契約締結は、携帯電話機向けプロセッサ業界で、MIPS Technologies社がARM社を相手にして初めて勝ち取った契約であることを明らかにした。同氏は、EE Timesのインタビューに応じ、「今回ライセンス契約を結んだ企業はアジアを拠点とし、ARM社とMIPS Technologies社の両方とライセンス契約を結んでいる。しかし、この企業が3G通信対応プロセッサとして選んだのは、ARM社ではなくMIPS社のプロセッサIPだった」と述べている。

 MIPS Technologies社が期待を寄せるライセンス供与先企業の名前は、なぞに包まれたままである。しかし、米Benchmark社でアナリストを務めるGary Mobley氏は、「台湾MediaTek社か、中国Spreadtrum Communications社、ルネサス エレクトロニクスのいずれかではないか」と述べている。

 ロイヤリティ収入は10%増加

 さらにMobley氏は、「MIPS Technologies社は、米Beceem Communications社との契約締結に続いて、今回の契約締結に成功した。これで、携帯電話機向けベースバンド・チップ市場で、2011年までに少なくとも2%〜4%のシェアを確保できるだろう。2%〜4%程度のシェアは、たいした規模だと思えないかもしれないが、携帯電話機向けベースバンド・チップ市場は、100億米ドル規模の市場だ。2%〜4%程度のシェアでも、現在のロイヤリティ収入を少なくとも10%増加させることが可能だ」と述べる。

 また同氏によれば、MIPS Technologies社が発表した2010年第3四半期の業績を見ると、ライセンス収入に関する予測が的中しているという。同社の2010年第3四半期の売り上げは、2010年第2四半期比で15%増となる1750万米ドルに達し、ライセンス収入は2010年第2四半期比で42%増、ロイヤリティ収入は同6%増だった。

 マルチスレッド、マルチコアでARMを追撃

 Vij氏は、「携帯電話機向けプロセッサIPの市場は、変化すべき時期に来ている。どのメーカーも同じプロセッサを使い、似たような製品を作っている状態に陥っているため、変化を望む企業が増えるのも当然だ」と指摘する。

 顧客企業がプロセッサIPベンダーの変更に踏み切る理由は、2つ挙げられる。それは、競合他社とは異なる特長を持つ製品作りが可能な環境と、価格だ。Vij氏は、「MIPS Technologies社のプロセッサ・コアを使えば、競合他社とは異なる特長をもつ製品を提供できる」と主張する。

 MIPS Technologies社は、携帯電話機市場におけるシェア獲得に向け、どのような戦略を用意しているのだろうか。

 Vij氏は、競合ベンダーのプロセッサ・コアと比較した、MIPS Technologies社のプロセッサ・コアの強みとして、1つのコアで複数のスレッドを同時実行できる(マルチスレッド)アーキテクチャになっている点を挙げた。「今日の携帯電話機は、単なる通話機能だけではなく、さまざまな機能を提供しなければならない。複数のプログラムを同時に動作させるには、複数のスレッドから同時並行的に複数の命令をプロセッサ・コアに送らなければならない」と述べる。

 Vij氏は、「ARM社のプロセッサ・コアでは、1つのコアで処理できるスレッドは1つに限られる(シングルスレッド)が、MIPS Technologies社のコアは、少ないコア数でより多くの命令を処理できる。このため、ダイの寸法を小さくできる上、消費電力の削減も可能だ」と述べる。

 一方ARM社のプロセッサ・コアは、複数のプログラムを同時に動作させるには、コア数を増やす(マルチコア化)しかない。同氏は、「もちろんMIPS Technologies社のプロセッサ・コアは、マルチコア化にも向いている」と付け加えるのを忘れなかった。そして、米Cavium Networks社や米NetLogic Microsystems社などの企業が、MIPS Technologies社のプロセッサ・コアをマルチコア化して活用している例を挙げた。

 さらに同氏は、「MIPS Technologies社の顧客企業は、最初からMIPS Technologies社のプロセッサ・コアが持つ利点を理解していたはずだ。しかし、携帯電話機市場では、ソフトウエアのエコシステム構築に向けて、対応すべき課題が山積みだったため、ARM社のプロセッサ・コアからMIPS Technologies社のプロセッサ・コアへの切り替えを試みる企業がこれまで現れなかった」と述べる。

 Androidの登場がチャンスとなった

 こうした状況を変えたのが、米Google社が提供するスマートフォン向けオペレーティング・システム(OS)である「Android」だ。Androidの登場によって、MIPS Technologies社にチャンスが到来した。

 Vij氏は、「携帯電話機市場は、爆発的な成長市場だ。米Apple社のiPhoneが実現した技術革新は、まだこれから中国やインド、ブラジルなどの国々に広がろうとしているところだ」と述べる。

 さらに、「大きな動きがあるところに、チャンスが生まれる」と述べ、しかるべき時にしかるべき位置を確保しておくことで飛躍したいとの考えを率直に語った。

 Vij氏は、2010年1月にMIPS Technologies社のCEOに就任して以来、顧客企業の訪問に多くの時間を費やし、各社の幹部らとの会合を重ねてきた。同氏はAndroidについて、スマートフォンに限らない、多くの場面で使えるという性格を持っていることから、瞬く間に普及していくとの見方を隠すことなく語ってきた。「Android導入の動きは、津波となってすぐそこまで押し寄せてきている」(同氏)。

 同氏は、Androidが加速度的に勢いを増している要因として、以下の4つを挙げている。

  • 実績があり、多くの場面で便利に活用できるLinuxを基盤としていること。
  • 高い知名度を誇るGoogle社が、開発を手掛けているということ。
  • プログラム作成を便利にし、特定のハードウエアに依存しないフレームワークを持っていること。
  • 無償であること。

 柔らかな語り口のVij氏は、携帯電話機市場においてARM社から首位の座を奪うための今後の戦略を問われると、「ビジネスは、紳士的なゲームである。競合相手に目を向けることではなく、顧客に向けて価値あるものを提供することが大切だ」と穏やかに述べた。

 さらに同氏は、ARM社のプロセッサ・コアにはなく、MIPS Technologies社のプロセッサ・コアが持つ特長として以下の4点を挙げた。

  • 32ビットのプロセッサ・コアだけでなく、64ビットのプロセッサ・コアも提供。
  • マルチスレッドに対応。
  • マルチコア構成も可能。
  • 性能を犠牲にすることなく、プログラム・サイズを縮小できる。

 Vij氏は、今後の開発ロードマップについて問われると、「コアの出荷数量の増加に向けてではなく、コアの品質向上を目指して投資していきたい」と答えた。

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