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室温で圧力掛けずにがっちり接合、わずか1nmの金属薄膜がウエハー同士を一体化水晶デバイス

京セラキンセキは、「原子拡散接合法」と呼ぶ新たな接合技術を使い、水晶デバイスを接合することに成功した。

» 2010年05月20日 00時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

 水晶デバイスの用途は広く、基準信号源に使う水晶振動子の他に、さまざまな光学部品(例えば、波長板)にも使われている。一般に水晶を使った光学部品は、異なった光学特性の水晶基板(水晶ウエハー)を、有機系接着剤で張り合わせて形成している。

 しかし、有機系接着剤には以下に挙げる主に3つの観点で問題がある。1つは、水晶に比べて光が透過する周波数帯域が狭いこと。水晶は波長が140nm〜5μmと広い周波数領域で、透過率が高い。これに対して、有機系接着剤は一般に300nm以下の波長に対して透過率が極端に下がってしまう。このため、波長が400nm以下の紫外線領域を使うレーザー加工装置に対しては、有機系接着剤を使うのは難しかった。複数の水晶ウエハーを平行に保持するための専用のホルダを使うという方法もあるが、形状や寸法が制限されてしまうという課題がある。

 2つ目の問題は、接合部が厚いために、透過波面収差(光の透過むら)が大きいこと。3つ目は、高出力の光源に対する耐久性の点で難があることである。

 京セラキンセキは、このような課題の解決を目的に「原子拡散接合法」と呼ぶ新たな接合技術を使い、水晶デバイスを接合することに成功した(図1)。原子拡散接合法そのものは、東北大学電気通信研究所の准教授である島津武仁氏が開発した。京セラキンセキは島津氏と共同で、水晶デバイスに原子拡散接合法を適用する研究を進めてきた。

図1 図1 有機系接着剤を使わない新たな接合技術 新たな接合技術を適用した水晶デバイスを、京セラキンセキと東北大学電気通信研究所が共同で開発した。まず、波長板や光学ローパスフィルタといった光学部品に適用する。写真は、水晶ウエハー同士を接合した状態を示している。

ウエハー同士を室温で接合したいという要望多し

 原子拡散接合法は、粒度の細かい微結晶からなる金属薄膜を介してウエハー(例えば、水晶ウエハー)を接合する手法である。

 まず、スパッタ法を使って、水晶ウエハーに微結晶の金属薄膜を形成する。その上で、水晶ウエハー同士を接触させて、両者を接合させる。水晶ウエハーを接触させた部分では、金属原子が拡散しやすい状態になっているため、水晶ウエハー同士が金属結合で強く接合する。「加熱したり、高い圧力を掛けなくても、ウエハー同士を接合できることが大きな特長だ」(東北大学電気通信研究所の島津氏)。これまでの接合技術は、高温環境下で、接合部を高圧力で圧着させる必要があった。なお、水晶ウエハーと金属の接合部は、単純な結合状態として説明できないとする。

 接合部はわずか1nm程度と薄いため、光学部品全体の屈折率や透過率に与える影響は、実用上問題ないレベルである。「薄膜を均等に形成する技術や、水晶の加工・評価技術に鍵がある」(京セラキンセキ山形の開発本部のパッケージ開発課に所属する大場健司氏)という。ターゲットとなる金属はいくつか限られており、「現在、透過特性や水晶との接合強度の観点から最適な材料を見極めている」(同氏)という。Ti(チタン)やCr(クロム)、Au(金)、Si(シリコン)を候補に挙げている。

 接合部の強度は十分に高く、引っ張り強度は30MPa以上である。「接合部が破壊するより前に水晶ウエハーが壊れてしまうほど、接合部の引っ張り強度は高い」(同氏)。

 東北大学電気通信研究所の島津氏によれば、原子拡散接合法のアイデア自体は10年前から持っていたものの、ずっと寝かせた状態だった。ところが、ここ最近になって、室温でウエハー同士を接合したいという要望が数多く寄せられたことから、再度研究をスタートさせた。同氏は、ハードディスク装置(HDD)に使う磁気記録媒体の研究を手掛けており、スパッタ法を使って高品質の薄膜を形成する技術を有していたことが開発に至った背景にある。「スパッタ法でウエハーに金属の薄膜を形成してそれを接合に使うアイデアと、アイデアを実際に確かめたことが新しい」(島津氏)。

 なお、有機系接着剤を使わない接合技術としては、2009年6月にエプソントヨコムが「GL(GlassLike/GlueLess)接合技術」と呼ぶ新技術を発表している。ガラス質の接合膜を介して水晶板を重ねるという技術である。

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