ナショナル セミコンダクター ジャパンは、最大サンプル速度が3.6Gサンプル/秒と高いA-D変換器IC「ADC12D1800」を発売した(図1)。分解能は12ビットである。「分解能が12ビットの競合他社品に比べて、最大サンプル速度は3.6倍も高速」(同社)。用途は、軍事や民生、通信、光通信と幅広い。例えば、レーザーレーダー(ライダー)やレーダー、マルチチャンネルのセットトップボックス、マイクロ波通信装置、無線基地局、光伝送装置、デジタル・オシロスコープや材料の成分分析装置といった計測装置などに向ける。
最大サンプル速度が1.8Gサンプル/秒のA-D変換回路を2つ集積しており、これをインターリーブ動作させることで、サンプル速度を最大3.6Gサンプル/秒まで高める(図2)。フルパワー帯域幅は、インターリーブ接続時に2.15GHzである。
同社は2004年以降、最大サンプル速度が1Gサンプル/秒を越える「超高速A-D変換器IC」の製品群を拡充してきた。これらの製品群では、最大サンプル速度とフルパワー帯域幅を高めつつ、消費電力を低く抑えていることをアピールしてきた。今回発売した品種でも、これまでと同様に消費電力の低さを訴求する。ADC12D1800では、2つのA-D変換回路をインターリーブ動作させたときの消費電力は4.1Wである。
ナショナル セミコンダクター ジャパンが特に期待しているのは、無線通信システムの実現手法の1つである「ソフトウエア無線(SDR:Software-Defined Radio)回路」への採用である(図3)。ソフトウエア無線は、ハードウエア(高周波回路)を共通化し、ソフトウエアの処理内容を変えることで、利用する無線通信方式を切り替える方式である。
いわゆる、「マルチスタンダード/マルチバンド対応の無線通信システム」を構成する際に、現在は別個に用意しているハードウエアを共通化できれば、基板面積や部品コストの削減が見込める。無線通信システムの開発期間の短縮にもつながる。現在はまだ研究段階であるものの、将来重要になる高周波信号の処理方式である。
複数の無線通信方式を扱うということは、それだけ広い周波数帯域幅と高い周波数の無線信号に対応することが必要だ。A-D変換器ICにも、広い周波数帯域高速でサンプリングできること求められることになる。この観点から、「今回発売した品種は、ソフトウエア無線システムの実現に非常に有効」(同社)と説明した。
さらに、複数の無線通信方式を扱う際に大切になるのが、ダウンコンバート回路の構成をシンプルにすること。理想的には「ダイレクトコンバージョン方式」の採用である。今回の品種は、サンプリング速度が速いため、高周波(RF)信号をベースバンド信号に変換するためのダウンコンバート回路の段数を、これまでよりも減らせるとする。
広帯域信号の中から狙った狭帯域の無線信号を抽出する際には、以下に示した幾つかの性能指標が重要になる。これらの特性指標も良好だという。
具体的には、ノイズ・フロアは−147dBm/√Hz、混変調ひずみ(IMD3)は−61dBFS、ノイズ・パワー比は52dBである(2つのA-D変換器ICをインターリーブ動作させたとき)。また、SN比は57.8dB、スプリアス・フリー・ダイナミック・レンジ(SFDR)は67dB、有効ビット分解能(ENOB)は9.2である(2つのA-D変換器ICをそれぞれ動作させたとき)。電源電圧は1.9Vである。
同社では、A-D変換器ICと組み合わせて使うオペアンプが、処理のボトルネックにならないよう品種を展開しているという。例えば、A-D変換器ICと組み合わせて使えるオペアンプとして「LMH6554」を挙げた。
最大サンプル速度が3.6Gサンプル/秒と高いA-D変換器ICのほかに、最大サンプル速度が3.2Gサンプル/秒の「ADC12D1600」と、最大サンプル速度が2.0Gサンプル/秒の「ADC12D1000」も用意した。いずれもも分解能は12ビット。サンプルと参照設計の提供を開始している。2010年第3四半期に量産を開始する予定である。
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