熱や振動、光、環境電磁波…。身の回りにあるわずかなエネルギー源をうまく集めて、各種センサーや無線通信の動力源として使う「エネルギーハーベスト技術」に注目が集まりつつあるようだ。2010年5月には、日本企業が中心となった業界団体「エナジーハーベスト・コンソーシアム」が発足した。
エネルギーハーベスト技術の用途は幅広く、例えば、照明をオン/オフさせたり調光するための照明スイッチや、空調用スイッチ、温度や湿度の監視などに使える。
これらの用途で、身の回りにあるエネルギー源をうまく使えれば、例えばスイッチと照明装置の間で信号をやりとりする配線を無くせる。配線するためのコストを削減できることや、配線が無いため建物内部のレイアウトを変更しやすいといったメリットがある。スイッチやセンサーの動力源に電池を使っていた場合は、電池交換のためのメンテナンスが不要になる。
エネルギーハーベストの分野で、アジア市場への売り込みを強化しているのがドイツEnOcean社だ。
「当社の技術は、欧州市場では標準的に採用される技術という地位を確立しており、米国でも普及しつつある」(EnOcean社のInternational Sales ManagerであるMichael Gartz氏(図1))という。欧州では、学校やオフィスビル、病院、歴史的建造物に加えて、一般家庭にも採用が進みつつあるとする。スイッチそのものが高価になるため初期コストが高くなるものの、長い目でみればコスト面で有利になる。EnOcean社の製品は、2010年4月時点で10万棟以上の建物への設置実績がある。
同社が、欧州と米国の次に狙いを定めるのがアジア地域、特に日本市場である。日本市場では一部、エネルギーハーベスト技術を使った照明スイッチの採用事例があるものの、業界全体として認知度が低いようだ。「日本での取り組みは、始まったばかり。メンテナンスが不要になる点を訴求して、エネルギーハーベスト技術を広げていきたい」(同社)と説明した。
同社は、エネルギーハーベスティング・モジュールの動力源として人がスイッチを押す力を利用して電磁誘導でエネルギーを生成するタイプ、太陽電池タイプ、温度差を利用してエネルギーを生成するタイプの3タイプを市場に投入している。
電磁誘導タイプと太陽電池タイプはすでに量産を開始しており、温度差タイプは評価キットを提供している(図2)。温度差タイプのエネルギーハーベスティング・モジュールでは、わずか数10mVの電圧を4.5Vに昇圧するDC-DCコンバータ技術が製品化の鍵となったという。このDC-DCコンバータ技術は、米Linear Technology社と共同で開発した。2010年前半には、1つのモジュールで、データの送信と受信それぞれに対応した「Bidirectional energy harvesting wireless sensor module」を市場に投入している(図3)。
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