ドイツの研究機関であるFraunhofer Institute for Systems and Innovation Research ISIは、銅やNd(ネオジム)、Ni(ニッケル)などの、電気自動車社会の実現に向けて需要が増大すると見込まれる金属について、緻密な研究を行った。その結果、電気自動車社会に十分対応できるだけの埋蔵量があることを明らかにした。ただし、以下のような問題点は残る。
今回の研究では、2050年までの期間を対象として、全世界における銅資源の消費量に焦点を当てた。銅に関するあらゆる用途を予測の対象に含んでいる。中でも、電気自動車に向けた用途について注視した。その結果、「電気自動車が銅の需要に及ぼす影響はほとんどない」という驚くべき結論が出た。例えば、電気自動車の割合が、非現実的だが自動車全体の85%を占めたとしても、世界全体の銅の需要における割合は、わずか21%にすぎないという。また、Fraunhofer Instituteの研究者であるMartin Wietschel氏によれば、もう少し緩やかな成長シナリオの場合、電気自動車社会において必要とされる銅の量は、世界全体のわずか14%だという。
今回の研究によると、全世界の銅の埋蔵量は、あらゆる市場分野からの需要に十分対応できる量だという。また、埋蔵場所は、さまざまな国に分散して広がっているため、銅の供給に関して政治的な危機が発生する可能性も低い。ただし、現在の採掘技術のままでは、2030年には銅が枯渇すると予測されている。研究報告書の共著者であるGerhard Angerer氏は、「新たな銅鉱山を発見したり、新しい技術を開発する必要があるため、銅の価格は上昇するだろう」と予測する。また、継続的な供給を確保するためには、今後15年以内に新しい銅鉱山を発見する必要があるという。
さらに、銅の再生利用をより進めることも必要だ。大半の先進国は、すでに高度な再生利用システムを導入している。しかし新興国では、再生利用システムの導入を大いに推進しなければならない状況だ。
ほかにも、銅の供給を途絶させないための手段として、アルミニウムをはじめとする物資と銅を置き換える方法もある。銅の代替としてアルミニウムを使用する方法は、技術的には可能だが、エネルギ効率に対しておよぶ影響がかなり大きい。また、通信やデータ・ネットワークの分野では、グラスファイバや無線技術を使えば、ある程度まで銅を置き換えることが可能だ。
Fraunhofer Institute for Systems and Innovation Research ISIは今後、電気自動車社会に関連するほかの原料についても研究していく予定だ。研究対象としては、電気自動車用の高性能磁石に使用するNdや、リチウムイオン電池の正極材料として使用するCo(コバルト)やNiなどが挙げられている。
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