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「iPhoneはまだジャイロを生かし切っていない」、エプソントヨコムが携帯市場に意欲センシング技術 ジャイロセンサー

エプソントヨコムは、2010年9月9日に東京都内で報道機関向けの技術説明会を開催し、その中でジャイロセンサー(角速度センサー)のアプリケーション動向について説明した。今後は携帯電話機向けのジャイロセンサーで人間(ユーザー)の動きを高い精度で検出するニーズが高まるとの見解を示し、同社が手掛ける水晶ジャイロセンサーが他方式のジャイロセンサーに対して優位に立てると主張する。

» 2010年09月09日 10時00分 公開
[薩川格広,EE Times Japan]

 「iPhone 4は、まだジャイロセンサーを生かし切っていない。ジャイロセンサーならではのキラーアプリケーションが登場するのはこれからだ。そのときこそ、水晶素子を使ったジャイロセンサーの真価を発揮できる」 ―― エプソントヨコムは、2010年9月9日に東京都内で報道機関向けの技術説明会を開催し、その中でジャイロセンサー(角速度センサー)のアプリケーション動向について説明した(図1)。今後は携帯電話機向けのジャイロセンサーで人間(ユーザー)の動きを高い精度で検出するニーズが高まるとの見解を示し、同社が手掛ける水晶ジャイロセンサーが他方式のジャイロセンサーに対して優位に立てると主張した。

図1 図1 技術説明会の様子 エプソントヨコム プロダクトマーケティング部 部長の宮澤健氏が同社の水晶ジャイロセンサーについて説明した。

 アップルが2010年6月に投入した新型スマートフォン「iPhone 4」は、業界に先駆けてジャイロセンサーを内蔵したことも話題の1つになった。「携帯電話機市場では今後、iPhone 4のような優れたユーザーインタフェースを実現するために、スマートフォンへのジャイロスコープの搭載が進む」との見方もある(参考記事「スマートフォン向けMEMSジャイロスコープ市場、今後急拡大の見込み」)。実際に、エプソントヨコムでも、「iPhone 4の発表後、スマートフォン各社がジャイロセンサーの検討を本格化し、引き合いが増えている状況だ」(同社プロダクトマーケティング部 部長の宮澤健氏)という(図2)。

図2 図2 スマートフォンへの搭載でジャイロセンサー市場が拡大 ジャイロセンサーの市場規模の予測である。最新の予測では、2009年時点での予測を上方修正した。iPhone 4を皮切りに、スマートフォンへの搭載が進むことを織り込んだという。

 ただし、iPhone 4が採用したジャイロセンサーは、Si(シリコン)チップ上にMEMS技術でジャイロ素子を作り込んだ、いわゆるMEMSジャイロセンサーである(参考記事「iPhone 4を分解、iPadと部品を共用しコスト低下を図る」)。MEMS品は、エプソントヨコムが手掛ける水晶品に比べて、角速度を検出する素子の特性については原理的に劣るものの、小型化しやすい、材料や製造のコストを比較的低く抑えられるといったメリットがある。一方で水晶品は、性能が「けた違いに高い」(同氏)という点を訴求する(図3)。具体的には、角速度の検出感度とゼロ点出力それぞれの温度特性や、検出信号出力の雑音密度といった特性がMEMS品に比べて大幅に優れているという。

図3 図3 角速度の検出素子ごとの性能比較 左から3つ「ダブルT型」「音叉」「H型音叉」はいずれも水晶を使う。エプソントヨコムの水晶ジャイロセンサーが採用するのは「ダブルT型」だ。なおもしこの表に「サイズ」を書き加えるとすれば、「ダブルT型」は○、「音叉」と「H型音叉」は△、「Si-MEMS」は◎になるという。

やがて市場ニーズは「性能」へ向かう

 コストのMEMSジャイロと性能の水晶ジャイロ――。スマートフォンへの搭載では、いまのところMEMS品が先行した格好だ。これに対しエプソントヨコムは、将来的には、市場ニーズは「性能」に向かうとの見解を示している。「もし水晶品の価格がけた違いに高ければ、機器メーカーには見向きもされないだろうが、(そこまで価格差が大きくないので)性能の高さで優位に立てる用途もある」(宮澤氏)。

 同社のロジックはこうだ。「iPhone 4を当社で分析したところ、現時点でのジャイロセンサーの役割は、方位検出用に別に内蔵した地磁気センサーの補助にとどまっているようだ」(同氏)。地磁気センサーは、テレビ受像機に接近したり、近隣で落雷があった場合など、強い磁気を受けると一時的に機能しなくなってしまう。その際に、ジャイロセンサーが出力する角速度の情報を利用して、アプリケーションの機能を維持するというわけだ。しかしこれは、角速度情報の本来の活用方法とはいえない。

 「iOSやAndroidなどのOSプラットフォームが進めている対応から推測すると、今後は(人間の動きを入力情報として利用する)モーションアプリケーションがメインの活用方法になると考えられる。そうなれば、特性が悪いセンサーでは、やがて応用に限界がくる。いずれ、低雑音・低ドリフトの高性能品が求められるときがくるはずだ」(同氏)。そうなれば、水晶品の優位性が一気に高まると主張する。「実際に、iPhone 4に搭載されているジャイロセンサーを当社で分析したところ、雑音がかなり大きかった」(同氏)。

 携帯電話機でジャイロセンサーに特に高い性能を求める将来のアプリケーションとして同社が挙げるのが、歩行者のナビゲーションに向けた推測航法(PDR:Pedestrian Dead Reckoning)である。GPSからの位置情報や、地磁気センサーからの方位情報のほかに、歩行距離や運動・姿勢なども考慮してユーザーをガイドする。「自動車に比べて、歩行者は姿勢や方位の自由度が高く、運動速度の変化幅も広い。さらに、建物内や地下を移動することが多い上に、求められる位置精度は細かい。ナビゲーションの技術的な難易度は格段に高くなる」(同氏)(図4)。

図4 図4 歩行者の推測航法は自動車向けに比べて難易度が高い 自動車向けはカーナビですでに実用化されているが、歩行者向けは「まだ現実的な解が見つかっていない段階」(エプソントヨコム)である。

 従って今後は、こうした高度なアプリケーションに対応するため、角速度の検出範囲が広い上に安定度が高く、低雑音で、自由度が高い(多軸・各項目の検出)センサーが求められるという。同社はそうしたセンサーの具体例として、2010年9月に発表した2製品を紹介した。1つは、素早い動きとゆっくりとした動きの検出の両方に対応可能なジャイロセンサー「XV-3700CB」(参考記事「エプソントヨコムが水晶ジャイロセンサーを発売、高感度と広検出範囲を両立」)、もう1つは、3軸のジャイロセンサーと3軸の加速度センサーを1つのパッケージにまとめた6自由度のモーション検出モジュール「AH-6100LR」である。

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