データベース大手のオラクルは、米国カリフォルニア州サンフランシスコで2010年9月23日に開催した年次総会において、「ある半導体メーカー」を買収する予定だと発表した。
データベース大手のオラクルは、米国カリフォルニア州サンフランシスコで2010年9月23日に開催した年次総会において、「ある半導体メーカー」を買収する予定だと発表した。
同社のCEO(最高経営責任者)であるLarry Ellison氏は、「当社は今後、ハードウエア事業を強化していきたい」と表明し、会場を驚かせた。オラクルは2010年初めに、サーバメーカーであるサン・マイクロシステムズの買収を完了させたばかりだ。
Ellison氏は、買収を検討している半導体メーカーについて詳細を明らかにしなかった。しかし今回の発表を受け、半導体業界に憶測の波紋が広がり、アームをはじめとする多くの半導体関連企業の株価が跳ね上がる結果になっている。
オラクルはいったい、どの半導体メーカーを買収するつもりなのだろうか?
AMDかアームではないかとの憶測もあるが、アナリストたちは否定的だ。一方、国際ビジネスニュースサイトのThe International Business Timesは、米国の調査会社ThinkEquityの情報を元に、オラクルの買収先をメラノックス・テクノロジーズ(Mellanox Technologies)だと推測している。
このほかにも、オラクルはEDAベンダーを狙っているのではないかとの見方もある。そこでEE Timesの編集者は、自身の見解を元に、オラクルの買収先となる半導体メーカーを以下の通り推測してみた。
Rick Merritt:EE Times編集委員
オラクルがメラノックス・テクノロジーズを買収する可能性は低いだろう。メラノックス・テクノロジーズは、インフィニバンド(Infiniband)チップを手掛ける唯一のメーカーであり、その供給先にはIBMをはじめとするオラクルの競合企業が名を連ねる。さらに、メラノックス・テクノロジーズは最近、非常に優れた業績を収めていることからも、同社が買収を望む状況にあるとは考えられない。
現在のサーバ市場では、サーバとネットワーク、ストレージをひとまとめにして販売する手法が大きなトレンドになっている。サン・マイクロシステムズは、HPやIBMほどネットワーク分野に強くない。オラクルが半導体メーカーを買収するならば、10Gビット超イーサネット関連のメーカーではないか。
よりいっそう有力な買収先として挙げられるのはAquantiaだ。同社は、PLXテクノロジーが買収したTeraneticsと同様に、スタンドアロン型の10GBase-TのPHYチップを手掛けている。Aquantiaは1億米ドルの資金を調達しながらも、まだ利益が上がっていないようだ。また、意表をつく買収先としては、新興企業のSeaMicroも考えられる。同社は、Atomプロセッサを搭載した低消費電力マルチプロセッシングサーバを2010年に発表したばかりだ。ただし、オラクルはファブを求めているわけではないだろう。
Mark LaPedus:EE Times半導体担当エディター
オラクルは将来的に、サン・マイクロシステムズのSPARCプロセッサに見切りをつけるつもりだろう。SPARCは現在、勢力を失いつつある。だからといって、オラクルがAMDやアームを買収するとは考えられない。メリットが無いからだ。また、オラクルがファブを建設するとも思えない。
オラクルは、アームのプロセッサを専門的に取り扱う半導体メーカーを対象として、投資や買収を行うのではないだろうか。オラクルやサン・マイクロシステムズは将来的に、アームのプロセッサを搭載したサーバを実現したいと考えている可能性がある。実際にオラクルは、ARMプロセッサ搭載サーバを手掛ける米国の新興企業であるSmoothStoneに出資している。SmoothStoneは最近、アームや、アブダビの政府系投資会社Advanced Technology Investment Company(ATIC)、テキサス・インスツルメンツ(TI)などで構成される投資団体から、4800万米ドルの資金を調達している。
Rick Merritt(EE Times編集委員)も指摘するように、オラクルはネットワーク用チップのメーカーを買収するのではないだろうか。ただし、コンピュータシステム企業が抱える課題の1つは、長年の課題である帯域幅のボトルネックで、特にプロセッサとメモリ間の帯域幅が頭痛の種になっている。この課題を解決する新しいアイデアも数多く提案されており、それはすなわちNANDに基づく新クラスのストレージサブシステムやI/Oシステムを使うというものだ。
恐らくオラクルは、こうした技術に取り組む企業を何社でも手に入れたいと躍起になっているのかもしれない。具体的には、Fusion-ioやViolin Memory、Viridentである。特にViridentは、少なくとも筆者には「買い時」に見える。Fusion-ioも同様だ。同社はHPのサーバ部門と戦略的な提携を結んでいる。オラクルCEOのEllison氏はHPをもっと横やりを入れたいはずなので、Fusion-ioの買収にも前向きになるはずだ。
最後にもう1つ、これも見逃せない動きだが、オラクルは性分に合わないことを始めているようだ。サーバ分野におけるサンのライバルの1社、IBMは社内に半導体部門を抱えている。IBMは、ASICやマイクロプロセッサの開発企業としても知られており、ファブも運営している。
IBMは、これまでに半導体企業の買収をいくつか実施しているが、それらの多くはうまくいっていないようだ。同社は、そうした買収先の多くから結局手を引いている。標準品のビジネスでやけどを負った同社は、その分野に近づきたくないようだ。
別のサーバベンダーであるHPは、しばらく前に半導体ビジネスから撤退している。同社の半導体部門は当初、計測器事業などとともにアジレント・テクノロジーに分社化され、その後アジレントから再び、アバゴ・テクノロジーへと分離された。
コンピュータベンダーの富士通も、半導体部門をスピンアウトさせている。
ここまでEllison氏のコメントについて書き連ねてきた。たぶん同氏は、社内の専門技術と設計者を増強するための手段として、過去に複数の半導体企業を買収しているシスコシステムズをなぞりたいのだろう。
Dylan McGrath:EETimes.comエディター
かつては、オラクルがEDA市場に参入するという根拠の無い憶測もあった。同市場の「ビッグスリー」であるシノプシス、メンター・グラフィックス、ケイデンス・デザイン・システムズのいずれかを買収し、参入を果たすというのだ。しかしこの憶測を支持した人々も、すぐに否定に転じた――多くの場合、笑いながら。EDA市場は、オラクルが食指を動かすには、何よりも規模が小さ過ぎた。オラクルの既存のビジネスとのシナジーもそれほど期待できない。ケイデンスの前CEO兼会長であるRay Bingham氏は、2002年からオラクルの取締役会のメンバーに名を連ねている。
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