富士通セミコンダクターは、アーム(ARM)のプロセッサコア「Cortex-M3」を採用した32ビット汎用マイコン「FM3ファミリ」を製品化し、第1弾として合計44製品を一挙に市場に投入する(図1)。
Cortex-M3は、消費電力の低さやコード効率の高さを特徴としたプロセッサコアである 。市場に投入する44製品の内訳は、FA機器のサーボ制御やインバータ制御に最適化した、動作周波数80MHzの「ハイパフォーマンス製品群」が36品種。白物家電をはじめ、デジタル民生機器、OA機器に向けた、動作周波数が40MHzの「ベーシック製品群」が8品種である。2010年11月下旬からサンプル出荷を開始し、2011年1月から順次、量産出荷を始める。
第2弾として、消費電力を低く抑えた製品群(「ローパワーライン」と呼ぶ)の開発を進めており、2011年第1四半期(4月〜6月)までにサンプル出荷を開始する予定である。電池駆動のモバイル機器や、消費電力削減の要望が強い宅内機器などを対象した品種だ。「幅広い市場に向け、全方位で対応を進めていく」(同社のマイコンソリューション事業本部 汎用品事業部の事業部長である布施武司氏、図2)と意気込む。
富士通セミコンダクターはこれまで、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やASSP(Application Specific Standard Product)の領域ではアームのプロセッサコアを採用した品種を用意していたが、マイコンの領域では30年近く独自コアを採用した品種を製品化していた。
この方針を大きく転換する。32ビットマイコンと16ビットマイコンのうち、車載用途以外の品種(非車載の汎用マイコン)については、ARMコアマイコンを前面に打ち出す(図3、図4)。「3年〜5年後には、ARMコアマイコンの売上高が、独自コア採用マイコンの売上高に追い着く」(布施氏)という見通しである。独自コアを採用した32ビット/16ビットの汎用マイコンの開発はすでに打ち切っており、車載用途など独自コアの要望が強い分野に向けてのみ、独自コア採用マイコンの開発を続ける。
ARMコアを採用した背景を、布施氏は「独自のプロセッサコアは、もはや汎用マイコンの差別化要因にはならない」という表現で説明した。
かつては、いかに独自コアの開発を進めるかが、マイコンの差別化ポイントだった。ところが、同社が「グローバルスタンダードコア」と表現するように、アームのプロセッサコアが全世界で広く使われるようになったことを背景に、独自コアを使い続けることが逆に、市場シェアを伸ばす上で足かせになってきた。「今後、マイコンの差別化ポイントは周辺回路の種類や性能になっていく」(同氏)という。Cortex-M3コアを採用したマイコンは市場に数多く存在するが、これとの差別化は搭載する周辺回路で打ち出していく。
同社は、新製品に搭載した周辺回路の特徴を幾つか挙げた(図5)。このうち特に強調したのが、「独自の高速・高信頼の組み込みフラッシュメモリ技術」(同社のマイコンソリューション事業本部のマーケティング統括部 汎用品マーケティング部の担当部長である細野秀樹氏)である。NOR型を採用したフラッシュメモリで、書き込み/消去回数は10万回、データ保持時間は20年間と高い信頼性を備える。動作周波数が60MHzまで待機時間(ウェイトサイクル)無しで応答することも特徴だ。
高速・高精度のA-D変換回路を搭載したことも特徴に挙げた。現在の品種に載せたA-D変換回路の分解能は12ビット、変換時間は1.0μsである。今後さらに分解能を高める計画で、分解能が16ビット、変換時間が1.0μsのA-D変換回路を載せることを検討している。
今回発表した新製品は、2010年12月1日からパシフィコ横浜で開催される「組込み総合技術展 Embedded Technology 2010(ET 2010)」で展示する予定である。
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