上に説明したいくつかの特徴は、2008年の発表時点でも強調していた点だった。発表時点と大きく変わった点は、前述の通り、音質が大幅に向上したことと、独自のデジタル信号処理用LSIのサンプル提供を開始したことだ。
「USB給電のスピーカーシステムを例に挙げると、供給電圧が3.3Vとは思えないほどの音量と音質を実現した」(岡村氏)という。音質を高めるに当たって、各メーカーのオーディオ機器を開発しているプロの技術者と、文字通りひざを突き合わせ、改善作業を続けたという。
Dnoteと呼ぶ独自のデジタル信号処理の主な構成要素は、マルチビットΔΣ型デジタル変調回路とノイズシェーピング回路で、音質を調整するために変えられるパラメータは無数にある。「パラメータの変化させ方と音質をひもづける部分に、当社のノウハウがある」(同氏)。
同社のデジタル駆動スピーカーから出力した音楽を聞くと、実際に評価した人の多くが、非常に驚くという。多くの技術者は、デジタル信号でスピーカーを駆動しても高品質の音が出せるわけがないという先入観を持っており、実際の音を耳にすることで先入観が覆るのだという。「視聴してもらうときは、スピーカー評価の定番ソング、イーグルスの『ホテル・カリフォルニア(Hotel California)』 を聞いてもらう。そうすると、オーディオ機器を長年開発している技術者でも、デジタル駆動スピーカーの音質を認めてくれる」(岡村氏)。
トライジェンスセミコンダクターは、起業当初、独自のデジタル信号処理のIPを、ライセンス提供することを想定していた。独自のデジタル信号処理を、各社のオーディオ処理用DSPに組み込んで使ってもらい、ライセンス料を受け取るというビジネスモデルだ。ところが、開発途中で、「チップベンダーになることを決め、方針を大きく転換した。Dnote処理用LSIを開発する優先度を上げた」(岡村氏)という。
従来は、FPGAを使ってデジタル信号処理を実現し、各企業に採用を働きかけていた。そうすると、「音質が高いのは分かった。面白い技術だ。ところで、チップはいつできるのか」というような話の展開になることが多かったのだという。「Dnote処理LSIとリファレンスボードを提供することで、各企業に最終製品のイメージをもってもらいやすくなる。製品化に弾みがつくはずだ」(同氏)と語った。
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