FPGA市場では、1980年代から現在に至るまで、最大手2社のアルテラとザイリンクスが製造プロセスの微細化で先頭をいくという構図が続いてきた。それがついに崩れる。インテルと組んだ新興ベンダーが、微細化で2強に先行する。その先にはどんな展望が広がるのか。半導体ファウンドリとして製造能力を提供するインテルの狙いは。当事者に聞いた。
EE Times Japan(EETJ) インテルから半導体製造プロセスの提供を受けて、22nm世代のFPGAを製造すると2010年11月に発表した。同社との提携の内容や意義を教えてほしい。
Holt氏 当社がFPGAチップを設計し、その製造をインテルが半導体ファウンドリとして請け負う。22nm世代の製造プロセス技術を皮切りに、その先のプロセス世代も、15nm、11nm…と継続的にこの提携関係を維持することで合意している。これによって当社は将来、ザイリンクスとアルテラに並んで数十億米ドルの売り上げ規模のFPGAベンダーになるだろう。
これまでFPGA市場では、ザイリンクスとアルテラが常に、最も微細化の進んだプロセス世代の製品を最初にテープアウト(設計を完了して製造に着手する)してきた。その結果、両社は市場に2強として君臨している。しかし次世代FPGAでは初めて、この2社以外の企業がプロセス技術のリーダーシップを取る。2強が28nm技術を適用するのに対し、当社はインテルと組んで22nm技術をいち早く採用する。
これは2つの点で歴史的な出来事だ。まず、規模の小さな企業がFPGAのプロセス技術で2強を超える優位性を手にする。さらに、インテルが最先端のプロセス技術で他社チップの製造を請け負う。いずれも今回が初めてである。
EETJ 22nm技術を適用することで、どのようなFPGAを実現できるのか。
Holt氏 性能を重視した製品群と、集積規模を重視した製品群を用意する。高性能品は、動作周波数が最大1.5GHzと高い。実は、インテルの22nmプロセスを使えば、3.6GHzを実現することも技術的には可能だ。しかし消費電力が大きくなり過ぎるので、最大でも1.5GHzにとどめている。それでも、ザイリンクスやアルテラが発表している28nm世代品よりも高速だ。
高集積品では、ASICゲート換算で最大2500万ゲート、4入力ルックアップテーブル(LUT)換算で最大250万LUTの品種を用意する。2強の28nm品の約2倍相当だ。動作周波数は高性能品に比べると低く、最大750MHzである。それでも2強の次世代品に比べれば大幅に高い。
コスト面も比較してみよう。2強に比べて40%低く抑えられると考えている。理由は3つある。1つ目は、微細化で先行すること。2つ目は、ウエハーコストだ。インテルは膨大な量のウエハーを購入しており、当社もそのスケールメリットを享受できる。3つ目は、製造歩留まりの高さだ。インテルはマイクロプロセッサの製造に向けて大量のウエハーを処理するラインを短期間で立ち上げる能力があり、しかも世界で最も高い歩留まりを実現している。
具体的な価格の例を挙げよう。最初に出荷する高集積品は、約100万LUTを内蔵し、28Gビット/秒の高速シリアルトランシーバなどの各種ハードIPを豊富に混載しながらも、大量購入時の単価を400米ドル以下に設定する。
すでに22nm世代品の早期の開発を終えた。2011年第1四半期には、製品の詳細な仕様を発表する。同年第3四半期にテープアウトし、同年第4四半期にはサンプルチップの出荷を開始する計画だ。22nm世代品に対応する開発ツールソフトウエアも、すでに複数の早期顧客に向けて供給を始めており、2011年第1四半期には一般顧客にも提供を開始する予定である。
EETJ 2008年に初めての製品として65nm世代のFPGAを発表した。その後22nm世代に一気に進むという判断に至った理由を教えてほしい。
Holt氏 当社のもともとの計画は、65nm世代品でファウンドリとして利用した台湾のTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)と組んで、28nm世代のFPGAを次期製品として投入するというものだった。実際に、28nm品の開発もある程度進めており、満足のいく結果が得られていた。ところが2010年6月に、インテルから「22nm技術でFPGAを製造しないか」と持ち掛けられた。22nm技術は、28nm技術と比べても革新性が非常に高い。そこで、28nm品の開発を継続せずに、22nm技術でインテルと組んで開発を進めることにした。
プロセス技術の観点では、22nm世代は28nm世代よりも微細化が進展するので、ハードルは高い。しかしインテルは、マイクロプロセッサの大量生産に対応できる22nm世代のプロセスをすでに立ち上げている。当社のFPGAを製造するのは、まさにそのプロセスだ。信頼性は非常に高い。しかもインテルはすでに22nm世代でテープアウトを終えている。当社は「新しい世代で最初にテープアウトする」という大きなリスクをとらずに済む。もし28nm世代で開発を続けていれば、恐らくは当社が業界で最初にテープアウトしなければならなかっただろう。
EETJ 最先端プロセスをアクロニクスに提供するインテルの狙いは何か。アクロニクスを将来買収するという前提があるのでは。
Holt氏 現段階では、当社とインテルの提携は純粋に製造の委託/受託という関係である。もしインテルが自社でFPGA事業を手掛けたいのならば、最も簡単なのは既存ベンダーを買収してしまうことだ。当社はもちろん、ザイリンクスでもアルテラでも、どこでも買収できるだけのキャッシュフローをインテルは十分に持っているはずだ。将来そうした可能性があることは認識している。しかし当社としてはまず、インテルとの提携関係を生かして、数十億米ドルのFPGAベンダーに成長することを目指す。
1つ指摘したいのは、先端プロセスの製造ラインを抱えるインテルのような企業にとっては、FPGAを製造すること自体がメリットになるということだ。例えばインテルは、マイクロプロセッサやメモリの製造をすでに手掛けている。メモリは、新しいプロセス世代の量産がごく短期間で立ち上がり、ウエハー処理量のピークも高いが、その持続期間は短い。マイクロプロセッサも、カーブは若干緩やかになるもののメモリと同様だ。ところがFPGAはまったくカーブが異なる。時間をかけて立ち上がり、ピークは比較的低いものの、それが長期間にわたって持続する。つまりFPGAを製造すれば、単一世代のウエハー処理量を最大化できる。これも、インテルがFPGAに興味を持つ一因だろう。
John Lofton Holt(ジョン・ロフトン・ホルト)氏
米Princeton Universityで電気工学を専攻した後、米Johns Hopkins Universityで電気工学の修士号を取得。1989年〜1997年、米航空宇宙局(NASA)のエンジニアとして設計に従事。その後、実行戦略/技術投資のコンサルタントとして複数の企業に勤務。自身でもコンサルティング会社を経営した。2004年にAchronix Semiconductorを共同設立し、現職に就く。
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